第4話 恋人
文字数 1,336文字
こちらに近づいて来ながら、生野が言う。
「彼女?」
メッセージの相手のことか。
「違うよ」
スマートフォンをしまいながら立ち上がる。そんな有希に目を向けながら、生野は事もなげに言った。
「じゃあ彼氏か」
有希は、思わず生野の顔を凝視する。
同性の恋人がいることを恥ずかしいとは思わないが、わざわざ公言することでもないと思っている。誰もが理解出来ることではないとわかっているし、何より、伸に迷惑をかけたくないのだ。
「図星だな」
生野が真顔で言った。
「お前、顔に出過ぎ」
有希はむっとする。
「大きなお世話だよ」
「まぁな」
こんなやつとは話したくない。そう思い、そそくさと教室を出ようとすると、背中に声をかけられた。
「これから、彼氏に会いに行くのか?」
いちいち気に障ることを言うやつだ。伸に会いたくてたまらない気持ちを必死に我慢しているというのに。
有希は、振り返って言った。
「会いになんか行かない。家に帰るんだよ」
すると、生野が言った。
「奇遇だな。俺も今から、家に帰るところなんだ」
有希は、生野と肩を並べて、駅に向かって歩いている。一緒に帰るなどと一言も言っていないのに、生野が勝手について来るのだ。
横を歩きながら、生野は、無遠慮な質問をぶつけて来る。
「お前って、やっぱり、そっち系なの?」
無視すればいいと思いながら、つい反応してしまう。有希は、ぶっきらぼうに聞き返した。
「そっち系って?」
「だから、男が好きなのか?」
「そんなこと、答える必要ないだろ」
有希の言葉に、生野がくっくっと笑う。
「それってもう、答えてるのと同じじゃん。へぇ、そうか。やっぱりそうなのか」
チクショウ。本当に癇に障るやつだ。
「やっぱりって、なんだよ」
生野が、ちらりとこちらを見て言う。
「見てりゃわかるさ」
「はぁ? 何それ」
有希は、小学校から、ずっと私立の男子校に通っている。自分の外見が中性的なことは自覚しているし、何度か同級生や先輩に告白されたこともある。
だが、これだけは、声を大にして言いたい。と言っても、実際に誰かに言ったことはないが、自分は、同性愛者というのとは、少し違う。
自分が好きなのは、あくまで伸一人であって、それは、同性とか異性とかいうことを超えた問題なのだ。なぜなら伸は、自分が生まれる前、つまり前世から定められた、運命の相手なのだから。
そのことについては、同性愛以上に人に理解される話ではないとわかっているので、有希と伸以外は知らないし、これからも、二人とも、誰にも話すつもりはない。
気まずい沈黙を抱えたまま、駅までの道を歩いた。横断歩道の向こうに駅舎が見えて来たときには、心底ほっとした。
まったく、勝手について来て、人の心をかき乱すのはやめてほしいものだ。そう思いながら、有希はさっさと改札を通る。
後に続いた生野が、ようやく口を開く。
「お前、どっち?」
今度は性的嗜好の話ではなく、帰る方向の話らしい。有希は、線路の向かいのホームを指す。
「あっち」
「俺はこっち」
「じゃあ」
「じゃあな」
生野の顔をちらりと見てから、隣のホームへ続く階段に向かう。生野に、じっと背中を見つめられている気がして、その視線から早く逃れたくて、有希は階段を駆け上がった。
「彼女?」
メッセージの相手のことか。
「違うよ」
スマートフォンをしまいながら立ち上がる。そんな有希に目を向けながら、生野は事もなげに言った。
「じゃあ彼氏か」
有希は、思わず生野の顔を凝視する。
同性の恋人がいることを恥ずかしいとは思わないが、わざわざ公言することでもないと思っている。誰もが理解出来ることではないとわかっているし、何より、伸に迷惑をかけたくないのだ。
「図星だな」
生野が真顔で言った。
「お前、顔に出過ぎ」
有希はむっとする。
「大きなお世話だよ」
「まぁな」
こんなやつとは話したくない。そう思い、そそくさと教室を出ようとすると、背中に声をかけられた。
「これから、彼氏に会いに行くのか?」
いちいち気に障ることを言うやつだ。伸に会いたくてたまらない気持ちを必死に我慢しているというのに。
有希は、振り返って言った。
「会いになんか行かない。家に帰るんだよ」
すると、生野が言った。
「奇遇だな。俺も今から、家に帰るところなんだ」
有希は、生野と肩を並べて、駅に向かって歩いている。一緒に帰るなどと一言も言っていないのに、生野が勝手について来るのだ。
横を歩きながら、生野は、無遠慮な質問をぶつけて来る。
「お前って、やっぱり、そっち系なの?」
無視すればいいと思いながら、つい反応してしまう。有希は、ぶっきらぼうに聞き返した。
「そっち系って?」
「だから、男が好きなのか?」
「そんなこと、答える必要ないだろ」
有希の言葉に、生野がくっくっと笑う。
「それってもう、答えてるのと同じじゃん。へぇ、そうか。やっぱりそうなのか」
チクショウ。本当に癇に障るやつだ。
「やっぱりって、なんだよ」
生野が、ちらりとこちらを見て言う。
「見てりゃわかるさ」
「はぁ? 何それ」
有希は、小学校から、ずっと私立の男子校に通っている。自分の外見が中性的なことは自覚しているし、何度か同級生や先輩に告白されたこともある。
だが、これだけは、声を大にして言いたい。と言っても、実際に誰かに言ったことはないが、自分は、同性愛者というのとは、少し違う。
自分が好きなのは、あくまで伸一人であって、それは、同性とか異性とかいうことを超えた問題なのだ。なぜなら伸は、自分が生まれる前、つまり前世から定められた、運命の相手なのだから。
そのことについては、同性愛以上に人に理解される話ではないとわかっているので、有希と伸以外は知らないし、これからも、二人とも、誰にも話すつもりはない。
気まずい沈黙を抱えたまま、駅までの道を歩いた。横断歩道の向こうに駅舎が見えて来たときには、心底ほっとした。
まったく、勝手について来て、人の心をかき乱すのはやめてほしいものだ。そう思いながら、有希はさっさと改札を通る。
後に続いた生野が、ようやく口を開く。
「お前、どっち?」
今度は性的嗜好の話ではなく、帰る方向の話らしい。有希は、線路の向かいのホームを指す。
「あっち」
「俺はこっち」
「じゃあ」
「じゃあな」
生野の顔をちらりと見てから、隣のホームへ続く階段に向かう。生野に、じっと背中を見つめられている気がして、その視線から早く逃れたくて、有希は階段を駆け上がった。