第25話 カフェ

文字数 954文字

 学校に着いて教室に入ると、有希は、思わず生野の姿を探した。自分の席に着いていた生野は、有希に向かって片手を上げて微笑んだが、そばに寄って来ることはなかった。
 それきり、生野と話をすることはなかった。生野とのことは終わったのだ。そう思っていたのだが。
 
 
 しばらくして、突然、生野が学校に来なくなった。クラス委員長の生野は、今まで学校を休むことはほとんどなかったはずだ。
 気になって、休み時間に、生野の隣の席のクラスメイトに、どうしたのか知らないかと聞くと、彼は言った。
「さぁ、知らないな。あいつとは、特に深い付き合いがあったわけじゃないし。最近は、お前のほうが親しくしてたんじゃないの?」

 言われてみれば、生野も、有希と同じで、あまり群れないタイプだったかもしれない。生野の連絡先を知らないので、それ以上のことは知りようもなかった。
 自分が原因なのではないかと思うほど、有希は自惚れてはいないし、生野は、そんなやつではないと思うが。
 
 
 数日後の放課後、駅の改札を通ろうとしていると、背後から声をかけられた。
「西原」
 振り向くと、私服の生野が立っていた。驚いている有希に、彼は言った。
「久しぶり。なぁ、よかったら、ちょっとそこのカフェに入らない?」
「いいよ」
 言われるまま有希は、生野の後に続いて、駅前のカフェに入った。
 
「お決まりになりましたら、お声をかけてください」
 席に案内してくれたウェイトレスが、メニュー表を置いて立ち去ると、さっそく生野が、にやにやしながら言った。
「今日は彼氏とデートじゃなかったか?」
 有希は、生野の顔を軽くにらむ。
「この時間は、仕事中だって知ってるくせに」
 ははっと生野が笑う。
「俺がおごるから、なんでも好きなもの頼めよ」
「いいよ。この前もおごってもらったし」
 パークレストランでのことだ。
 
 ちょっと気まずそうな顔をしてから、生野が言った。
「お前んちって金持ち? まぁ、クラスのやつらは、たいてい金持ちの息子か」
 生野に、家の話をしたことはないが、お金に困ったことがないのは事実だ。続けて、何か言いかけてから、気を取り直したように生野が言った。
「とりあえず、なんか頼もうぜ。俺、ちょっと腹が減ってるから、ピザトーストとコーラにするかな」
「僕は、じゃあ……コーヒーフロート」
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