第39話 焼きもち

文字数 922文字

 伸に甘えたい気持ちになっている。有希は、唇を尖らせて言った。
「僕は、伸くんしか目に入らないもん」
「ユウ……」
「やっぱり僕は、伸くんのことが大好き。まだ少し、頭が混乱しているけど、もう面倒くさいことは言わないよ。
 伸くんが、僕を愛してくれているっていう、それだけで十分。だから、これからも、ずっと一緒にいたい」
「ユウ」
 泣き笑いのような表情をした、伸の目が潤んでいる。
 
「伸くん」
 有希は、がたんと音を立てて椅子から立ち上がった。
「しよう」
 もう体の奥が疼いている。したくてたまらない。今すぐに。
 伸も立ち上がり、手を差し出して言った。
「おいで」


 いつもは、有希の体を大切に扱ってくれる伸が、なぜか今日は荒々しかった。だが、有希は返って興奮し、感じ、こらえきれずに何度も声を上げた。
 果てた後も、汗みずくの体をぴたりと寄せ合ったまま、二人して、激しい呼吸を繰り返す。細いプラチナのチェーンが、濡れた肌に張りついている。
 
 ようやく呼吸が静まった頃、有希は、伸の腕の中でつぶやいた。
「伸くん、すごかった……」
 伸が、耳元で言う。
「ごめん。痛かった?」
「うぅん」
 すごくよかったとは、恥ずかしくて言えない。また、あんなふうにしてくれてもいいけれど……。
 
 有希が、密かに照れていると、伸が意外なことを言った。
「俺はおじさんだし、もしもユウに、ほかに好きな人が出来たなら、引き止めたりせず、笑顔で送り出すつもりだったんだ。ユウが幸せになるなら、それでいいと思っていた。
 でも今日、そんなのはきれいごとで、自分の本心じゃないって思い知らされたよ」
 有希は顔を上げる。
「どういうこと?」
「今日、生野くんに会って話をして、ユウのことを誰にも渡したくないって、強く思ったんだ」

 有希は、思わずにやけてしまう。
「それって……」
 伸が、有希の体に回した腕に、ぎゅっと力を入れた。
「ユウが、学校で彼と言葉を交わしたり、目を合わせて笑い合っているのかと思うと、胸が苦しくなる」
 有希は、伸の胸に頬をつけたまま言った。
「伸くん、焼きもち焼いてるの?」
「あぁ。焼いてる」
 うれしい。伸が、そんなふうに思っていたことも、その気持ちを素直に認めたことも、たまらなくうれしい。
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