第47話 特別な存在

文字数 908文字

 タクシーで家に帰り着くと、母が玄関で迎えてくれた。
「おかえりなさい。安藤さんの怪我はどうなの?」
「うん。ただの打撲だって。でも、すごく痛そうで、今朝は、昨日より痛む範囲が広がったって言って、とても辛そうだった」
「そうなの。心配ね」
 話しながら、ダイニングルームに向かう。朝食を取ったら、もう出かけなくてはいけない。
 
 手を洗い、テーブルに着きながら、有希は言った。
「ママは、やっぱり、僕と伸くんの関係はおかしいって思う?」
 母が、有希の顔をのぞき込む。
「急にどうしたの? 何かあったの?」
「そういうわけじゃないけど……」

 有希は、うつむきながら話す。
「男同士だし、年の差もあるし。それに、その、部屋に泊まったり……」
 こんなことを、朝食の席で母親に向かって話している自分こそ普通ではない気がするが。母が微笑む。
「ママは、あなたたちの気持ちが真剣だっていうことがわかっているし、安藤さんのことも、とても誠実な人だと思っているから、二人のことを認めているけど、こういうふうに考える人は少ないでしょうね。
 でも、正直なところ、部屋に泊まったりするのは、まだ早いと思っているわ。今回のことは仕方ないにしても」
 やはりそうなのか……。
 
「でも、伸くんは、僕にとって特別な存在なんだ。僕は別に、男の人が好きなわけじゃないよ。僕には、伸くんだけなんだ」
 母が、戸惑ったような顔をする。
 伸との本当の関係、つまり、自分が伸のかつての恋人の生まれ変わりだということを話せない以上、本当の理解が得られないことはわかっている。たとえ話したところで、理解されないであろうことも。
 それでも、言わずにいられない。
 
「伸くんと、ずっと一緒にいたい。もしも伸くんと別れることがあったなら、僕はもう、一生誰かを好きになることはないよ。
 ママは、今はそう言っていても、先のことはわからないって思っているでしょう? でも、そうじゃない」
 しゃべりながら、涙が込み上げる。どう言えば理解してもらえるのかわからない。
「有希……」
「伸くんも、ずっと一緒にいようって言ってくれている。だけど、僕たちのことを伸くんのお母さんに知られたらいけないから、僕は……」
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