第23話 タオルケット

文字数 1,331文字

 あぁ、そうなのだ。過去に何度か告白されたとき、有希はまだ、恋をしたことがなかった。だから、相手の気持ちが全然わかっていなかったのだ。
 自分が思いを寄せる相手に振り向いてもらえないとき、思いを伝えても受け入れてもらえないと知ったきに、どんな気持ちがするのかを。
 伸を愛するようになった今、それが痛いほどわかり、自分が今まで、どれだけ無神経な態度を取っていたかを思い知らされて、苦しくてたまらない。
 明日、どんな顔をして生野と接すればいいのかわからない。
 
 有希は、伸にしがみつきながら言った。
「伸くんのことが大好きだよ。伸くんだけを、ずっとずっと……」
 伸が答える。
「俺もだよ。これからもずっと、ユウを愛している」
 我慢出来なくなって、涙がこぼれる。有希は、涙声で言った。
「僕のことだけ?」
「もちろん」
 伸は即答したが、有希は悲しくてならない。そうじゃない。だって伸くんは、「彼」のことを……。
 
 
 しばらく泣いた後、伸にうながされて、夕食の用意を手伝った。こんなことはめずらしい。
 いつもならば、部屋に入るなりキスをして、セックスをして、夕食を食べるのは、ずいぶん遅い時間になってからなのだ。いつも積極的な有希が、キスをねだりもしないのだから、きっと伸も心配しているに違いない。
 自分でも、少し意外だ。生野に告白されたことで、まさか自分が、こんなに動揺するとは思わなかった。
 食事の後は、これも、実にめずらしいことだが、奥の部屋で、二人並んでテレビを見た。クイズ番組をやっていたのだが、集中出来ず、有希はベッドに寄りかかったまま、いつの間にか眠ってしまった。
 
 
 ふと目を覚ますと、体にタオルケットがかかっていて、ちょうど伸が、リモコンでテレビを消したところだった。目をこすりながら起き上がった有希に、伸が言った。
「今、お母さんに電話をして、今夜はうちに泊めるって言っておいたよ」
「え……いいの?」
「うん。もう遅いし。お母さんは、それでいいけど、明日の朝、学校に行く前に、いったん家に戻るようにって言っていたよ」
「そう。ごめん……」
 伸に迷惑をかけてしまった。だが、伸は微笑む。
「いいよ。シャワーを浴びておいで」
「うん」


 バスルームから出ると、セットアップが置いてあった。有希は、それを着てベッドに入り、伸がシャワーを浴びるのを待った。
 お揃いのセットアップを着て部屋に入って来た伸に、有希は、横になったまま尋ねる。
「それって、いつも着てるの?」
「いや。ユウが来たときだけだよ」
「そうなんだ」
「これは、ユウと一緒のときに着るための大切な服だからね。一人では着ないよ」
 それを聞いて、なんだかうれしくなった。そんな有希の顔を見て、伸が言った。
「やっと笑顔になったね」

 結局その日は、何もしないまま寝た。伸がその気ならば、してもかまわないと思ったのだが、伸は、そんな素振りは見せず、有希の横で静かに目を閉じた。
 伸の本心はよくわからないが、めずらしく落ち込んでいる有希の気持ちを尊重してくれたのだろう。伸の、そういう優しいところも大好きだと思う。
 次に部屋に来たときには元気になって、伸とたくさん愛し合いたい。そう思いながら、有希は、伸の肩に頬を寄せて目を閉じた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み