第70話 辛い出来事
文字数 918文字
再び平穏な日々が戻って来たが、フォレストランドの閉園について、伸は一言も話さない。そのことが、返って悲しみの深さを表しているように有希には感じられた。
閉園までにはまだ時間があるし、伸の心が落ち着くまでは、そっとしておこう。そう思っていたのだが、あるとき、とうとう我慢出来なくなって、有希のほうから切り出してしまった。
それは、並んで座ってテレビを見ながら食後のコーヒーを飲んでいたときのことだ。
「ねぇ、フォレストランドのことだけど……」
テレビの画面を向いたままの伸の肩が、ぴくりと動くのがわかった。
有希は、伸の横顔を見ながら話す。
「閉園した後、あの場所はどうなるの?」
「それは、まだ決まっていないみたいだ。入札にかけるとかいう話もあるけど、あの広い敷地が売れるかどうか……」
「売れなかったらどうなるの?」
伸がうつむきながら言った。
「その場合は、分譲されるか、そうでなければ、当分の間あのまま放置されるのかな」
余計なことを言ってしまったかもしれないと思いながら、だが、気になっていたことを尋ねる。
「フォレストランドが閉園した後、伸くんはどうするの?」
「そうだなぁ……。新しい仕事を探さないとね」
その言い方が気になり、有希は、さらに言う。
「伸くんは料理人だから、レストランとか、そういう仕事を探すんでしょう?」
「うん……」
「ちょっと、伸くん!」
有希の声に驚いたように、伸がようやくこちらを見た。
「何?」
有希は、伸の腕に触れながら言う。
「伸くん。まさか料理の仕事をやめちゃうわけじゃないよね」
しばらく有希の顔を見つめた後、伸がふっと笑った。
「ユウ。俺のこと、心配してくれてるの?」
「だって……」
伸は、微笑みながら言う。
「あのときは、ひどく動揺してしまって悪かったね。フォレストランドが閉園するのも寂しいけど、それをきっかけに、過去の辛い出来事を次々に思い出してしまって、平静でいられなかったんだ」
また余計なことだと思いながら、有希は聞かずにいられない。
「それは、行彦と別れたこと?」
「それもあるよ。行彦が消えてしまったことも、洋館が取り壊されてしまったことも辛かった。だけど……」
不意に微笑みが消え、伸は口ごもる。
閉園までにはまだ時間があるし、伸の心が落ち着くまでは、そっとしておこう。そう思っていたのだが、あるとき、とうとう我慢出来なくなって、有希のほうから切り出してしまった。
それは、並んで座ってテレビを見ながら食後のコーヒーを飲んでいたときのことだ。
「ねぇ、フォレストランドのことだけど……」
テレビの画面を向いたままの伸の肩が、ぴくりと動くのがわかった。
有希は、伸の横顔を見ながら話す。
「閉園した後、あの場所はどうなるの?」
「それは、まだ決まっていないみたいだ。入札にかけるとかいう話もあるけど、あの広い敷地が売れるかどうか……」
「売れなかったらどうなるの?」
伸がうつむきながら言った。
「その場合は、分譲されるか、そうでなければ、当分の間あのまま放置されるのかな」
余計なことを言ってしまったかもしれないと思いながら、だが、気になっていたことを尋ねる。
「フォレストランドが閉園した後、伸くんはどうするの?」
「そうだなぁ……。新しい仕事を探さないとね」
その言い方が気になり、有希は、さらに言う。
「伸くんは料理人だから、レストランとか、そういう仕事を探すんでしょう?」
「うん……」
「ちょっと、伸くん!」
有希の声に驚いたように、伸がようやくこちらを見た。
「何?」
有希は、伸の腕に触れながら言う。
「伸くん。まさか料理の仕事をやめちゃうわけじゃないよね」
しばらく有希の顔を見つめた後、伸がふっと笑った。
「ユウ。俺のこと、心配してくれてるの?」
「だって……」
伸は、微笑みながら言う。
「あのときは、ひどく動揺してしまって悪かったね。フォレストランドが閉園するのも寂しいけど、それをきっかけに、過去の辛い出来事を次々に思い出してしまって、平静でいられなかったんだ」
また余計なことだと思いながら、有希は聞かずにいられない。
「それは、行彦と別れたこと?」
「それもあるよ。行彦が消えてしまったことも、洋館が取り壊されてしまったことも辛かった。だけど……」
不意に微笑みが消え、伸は口ごもる。