第63話 欲情

文字数 882文字

 やっぱりそうか。自分で聞いておきながら、はっきりそう言われると、なんだか面白くない。
 だが、伸が、笑顔のまま言った。
「別に俺は、それが悪いとは思っていないけど」
「……え?」
「ユウがいつも俺を求めてくれるのは、すごくうれしいし、ユウって、華奢であどけなくて、全然そういうふうに見えないのに、そのギャップが、すごく魅力的なんだよ。
 天使のようなかわいい顔の下で欲情しているのかと思うと、たまらない。俺だって、淫乱だよ」
 そう言う伸の表情がセクシーで、体中が熱くなる。今、自分も伸も、間違いなく欲情しているのだと思う。
「伸くん……」

 伸が、有希の顎を持ち上げて言った。
「それなら、今日は俺が誘うよ。ユウと熱いキスをして、服を脱がせて、体の隅々まで確かめて、くたくたになるまで愛し合いたい」
「伸くん……」
 伸が両手で有希の頬を挟み、唇が重なったかと思うと、すぐに舌が入って来る。早くも体の奥が疼き始める。
 今日も、この先もずっと、何度でも、伸に疼きを鎮めてもらいたい。それが出来るのは、世界中でただ一人、伸だけだから。 
 伸が言った通り、くたくたになるまで愛を交わした後、そのまま有希は、気を失うように眠りに落ちた。
 
 
 ふと気づくと、裸の体にタオルケットがかけられていて、すぐ横で、自分の腕を枕にした伸が見下ろしている。有希は、とっさに顔を隠した。
「恥ずかしいよ……」
 伸が、ふふっと笑う。
「今さら隠しても遅いよ。もうたっぷり見たから」
「もう」
 有希は、甘えて伸にしがみつく。伸も、まだ裸のままだ。 
 伸が、有希の背中に腕を回して抱き寄せる。肌と肌が密着して、また妖しい気分になってしまいそうだが、さすがにもう体が反応しない。
 
 有希は、伸の顎の下に顔をうずめるようにしながらささやく。
「あのね。僕、夢があるんだ」
「うん?」
 伸の声は、気だるそうだ。
「いつか、伸くんと一緒に暮らしたいな」
「そう」
「伸くんは、嫌?」
「嫌じゃないよ。うれしいけど、ユウがもっと大人になってから……」
「大人って、二十歳になってからってこと?」
 返事がないので、顔を上げると、伸は眠っていた。
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