第53話 相談事

文字数 730文字

「なら、僕も一緒に話をする」
 そう言うと、今度は、伸がつぶやいた。
「いいの?」
 有希は、思わず笑った。
「いいに決まってるよ。伸くんのお母さん、今はびっくりしていると思うけど、僕がどんなに伸くんのことを愛しているか話せば、きっとわかってくれるよ」
「なんだか恥ずかしいけど、うれしいよ。ありがとう」

 さらに有希は言った。
「そうと決まったら、なるべく早いほうがいいな。伸くんのお母さんの都合がつくなら、明日にでも」
 有希はいつも、思い立ったら、すぐに実行に移さなくては気がすまない質なのだ。そうやって困難を乗り越えた結果、伸とも恋人同士になることが出来たのだし。
 だが、伸が言う。
「でも、今日と明日は、二人で過ごす約束だったのに……」
「いいよ。これから先もずっと一緒にいるんだから、時間はたくさんあるもん。そのかわり……」

「何?」
「今夜は泊まってもいい?」
 母との取り決めの通り、今日は家に帰って、明日また来るつもりだったのだが、とてもそんな気になれない。だが、伸は考え込む。。
「うーん……。それはやっぱりまずいんじゃないかな」
「ママには、伸くんと大事な相談事があるって電話するよ」
 伸の母に、二人の関係を話すことになったと言えば、それについて有希が悩んでいることを知っている母ならば、わかってくれるのではないか。そんなふうに思うのは、都合がよ過ぎるだろうか。

 伸が言う。
「もしもお母さんが帰るように言ったら、そうするんだよ」
「わかった」
 どちらの母親も大切にしなくてはいけないし、信用してもらわなくてはいけない。この先も、ずっと伸と一緒に生きて行くためには。
 有希は、食べかけたままの寿司を指して言った。
「まずは食べちゃおう。せっかくママが持たせてくれたんだから」
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