第12話 セットアップ

文字数 984文字

 その日からは、また今まで通り、伸にメッセージを送ったり、夜は長電話をしたりして過ごした。
 伸の部屋に行く前日の土曜日には、買い物に出かけた。あちこちぶらついた後、いつものように、行きつけのセレクトショップをのぞきに行く。
「いらっしゃいませ」
 店に入って行くと、顔なじみの女性店員が笑顔を向ける。衣類のコーナーを見ていると、Tシャツとハーフパンツのセットアップが目についた。
 
 店員が近づいて来て言う。
「入荷したばかりなの。かわいいでしょう?」
「うん。こことここの色の切り替えとか」
 シンプルだが、色やステッチの使い方が、どことなく洒落ている。
「部屋着にしてもパジャマにしてもいいし。色違いでどう?」
 そう言われて、ふとひらめいた。伸と、おそろいで着るのはどうだろう。部屋で着るぶんにはペアルックでもかまわないだろう。
 
「あっ、じゃあ、グレーとネイビーをもらおうかな」
「ありがとうございます。サイズは、Mでいい?」
「えぇと、こっちはLで」
 店員が微笑む。
「グレーがM、ネイビーがLですね。かしこまりました」

 店員が包装してくれるのを待ちながら、有希は、伸と二人でセットアップを着ているところを想像する。着るのは、やはりシャワーを浴びた後だろうか……。
 
 
 いつもならば有希は、ドアが開くなり、伸に抱きついてキスをして、伸も、それに答えてくれるのだが、今日はそういう展開にはならなかった。伸が、目を見開いて言った。
「すごい荷物だねぇ」
 有希は、いつものようにデイパックを背負い、片手に制服が入ったバッグ、片手に二着のセットアップが入った袋を下げている。
 伸は、有希の手から荷物を受け取りながら言った。
「入って」

 有希は、靴を脱ぎながら言う。
「その袋、開けてみて」
「これ?」
 伸は、制服のバッグを棚の上に、袋をテーブルの上に置く。結局、有希が自分で袋の中身を取り出して並べた。
「これ、昨日買ったんだよ。かわいいでしょ?」

 伸が、それぞれ手に取って見ている。有希は説明する。
「あのね、こっちが僕ので、こっちが伸くんのだよ。この部屋で、一緒に着たいと思って……」
 伸は、こういうのは嫌いだろうか。にわかに心配になって、様子をうかがっていると、伸がにっこり笑った。
「うれしいよ。ありがとう」
 そして、さらに思いがけないことを言う。
「俺も、ユウにプレゼントがあるんだ」
「……え?」
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