第71話 絆

文字数 741文字

「伸くん?」
「やっと出会えたユウの記憶が失われてしまったことが、何よりも辛かった。ようやく会うことが出来たのに、もう二度と孤独が訪れることはないと思っていたのに、ユウを諦めなくてはいけなくなったことが……」
 有希は、伸の腕を強くつかむ。
「だけど、そんなことにはならなかったじゃない」

「そうだね。でも、絶対なんてことはあり得ない。ずっとあると思っていたフォレストランドがなくなってしまうように、ユウも、俺の前からいなくなってしまう日が来るかもしれない。
 ずっと孤独なままだったならまだしも、こんなに幸せな日々を過ごした後で、ユウを失ってしまったら……」
 伸が、片手で目を覆って言った。
「そんなことには、耐えられない」

 有希は、膝立ちになって伸を抱きしめた。
「伸くんは心配性だね。でも、それはきっと、何度も辛い経験をしたせいだね。
 僕はいなくなったりしないよ。一生、うぅん、永遠に伸くんのそばにいる。
 もしも、いつかまた僕が記憶を失くすことがあったとしても、そのときは、絶対に僕を離さないで。すべて忘れてしまったとしても、伸くんを愛する気持ちは忘れないよ。
 たとえ忘れたとしても、必ずもう一度、好きになるから」
 それだけは間違いない。なぜなら、今の自分もそうだから。伸が、有希の腰に腕を回しながら言った。
「ありがとう」

 
 それ以来、伸が今までよりも甘えてくれるようになった気がして、有希はうれしかった。有希が思っている以上に、伸は自分が年上であることを気にしていて、なるべく弱いところを見せないようにしていたのかもしれない。
 だが、恋愛に年は関係ないと思う。伸が自分を頼ってくれ、ときには弱音を吐いてくれるようになったことで、今まで以上に伸のことが愛しいし、より絆が強くなった気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み