第51話 チャイム

文字数 909文字

「うん。そうだね」
 うなずきながらも、伸はまだ浮かない顔をしている。
「だって、僕が伸くんとしたいからしてるんだよ。伸くんのことが大好きだし、すごく……」
 伸といろんなことをしたり、一つになったりすることは、恥ずかしくもあるけれど、とても幸せだし、すごく、気持ちいい。だが、もしかして。
「そういうの、伸くんは嫌なの?」
 伸が、はっとしたように顔を上げる。
 
「僕はいつも、伸くんとしたいと思ってる。伸くんと部屋で二人きりになったら、したくてたまらなくなって、いつも僕から求めているけど、そういうの、迷惑だった?」
 思えば、いつでも、伸が有希の激情を受け止める形で行為が始まるけれど、今までに、伸のほうから激しく求めて来ることなどあっただろうか。
 もしや伸は、積極的で淫乱な有希に辟易しているのだろうか。今まで一度もそんなふうに考えたことはなかったが、不意に不安が押し寄せる。
 
 だが伸は、有希の顔を見つめながら言った。
「違うよ。ユウが真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれることがうれしいし、俺だって、ユウとしたいと思ってる。しているときのユウの反応も、体の隅々までも、全部大好きだよ。
 だけど、ユウのことを愛しているし、大切に思っているからこそ、お母さんの立場になって考えたら、とても複雑な気持ちになるんだ」
「伸くん……」

 伸が、優しく微笑んだ。
「おかしなことを言ってごめん。せっかく一緒に過ごせる大切な時間なのに、不安にさせて悪かったね」
「うぅん」
 有希は、思わず涙ぐむ。
「僕こそ、突っかかってごめん」
「いいんだ。思ったことを率直に話してくれてうれしい。ユウのそういうところも好きだよ」
 照れ笑いをしながら涙をぬぐう有希に、さらに伸が言った。
「泣き虫なところも」

 
 痴話げんかのような会話を交わした後、結局は、すぐに仲直りして、他愛ないことを言い合いながら寿司を食べていると、突然、玄関のチャイムが鳴った。二人は箸を止めて、思わず顔を見合わせる。
 伸が小声で言う。
「何かな」
 有希が首をかしげていると、さらにチャイムが鳴った。伸が、そろそろと立ち上がる。
「荷物が届く予定はないけど……」
 そう言いながら、玄関に向かったのだが。
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