第72話 腹を抱えて

文字数 1,059文字

 娘夫婦が帰ってきた。
県西部の祖谷温泉を予約してあったが、折角の温泉なのに台風2号の影響で大雨。
雨の自然温泉は温度が低いと聞いたので、キャンセルした。
 結局、通い慣れた淡路島のホテルへ。ホテルはこの4月から、経営者が変わっていて、
大幅にリニュウアルする予定という。もうその気になっているのか?
夕食も欲しいものがない。
 たっぷり時間はあるので、外で食べることにした。
美味しい肉を食べさせてくれる店を知っているのでそこへ案内することにした。
「何というお店」
「横文字で店の名前は忘れたが、道中は知ってるからガイドする」と放言した。
安心して娘夫婦は南あわじ道を走った。
「ナビに入れるから町名は、電話番号は、店の名前は」不安になったのか聞く
「任しといてもう直ぐイオンが左側にあり、ニトリもあるから」
走れども走れども、私の脳裏と同じ道に合わない。娘がおかしいと仕切りに言う。
「あんたは初めてだろう私は、何年淡路へ通っていると思うの、間違いない」
走っているうちに洲本を通過した。その頃になって「これは違ったか」と思い始めた。
おかしいと言う声を無視しているうちに海に出た「アァッいけない」
「ごめん。違っているわどこかでターンして」
「そーれごらんもっと早くターンしていれば」娘はとった顔で言う。
とうとうコンビニで車を止めて弟に電話を入れて店の名前を確認した。
驚くなかれ主要道路を一本勘違いしていたのだ。随分バックした。
ナビは正確に案内してくて、やっと目的地に着いたら、本日、お休みの貼り紙。
その時は3人とも笑うより方なしで、腹を抱えて笑った「ワッハッハ」「アッハッハ」
そのあと、聞いたこともない店でステーキを食べた。美味しかった。

 2月に肉屋さんへ行って、次の月、梅林へ行った。途中までは同じ道筋だったで、
頭の中で、道中が絡んでしまったのだ。
店の名前も忘れる。横文字は覚えにくいでは、大事な時に困る。そのためにカバンに
いつも手帳を入れてあるのだが、書き込むのが、めんどくさいのである。あとでする。
あとでね。が、そのままになって、このようなことになった。
 悪い、悪いと思っているのについ憎たれ口を言う
「何と言っても90過ぎたからね、年よ」年は良い隠れ蓑である。
「それだけ都合で歳に責任転嫁できたら、脳はまだ稼働しているわ」
と笑いながら娘は責める。

  忍び寄る加齢。
 日々低下してゆく体力と記憶力。
 それでも生きている間は、自分らしく生きたい。
 他所の人の目にはどう映っても良い。
 子供たちには、範をたれる生き方をしなくては。と念じている。








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