第19話 シルクロード(4)

文字数 739文字

 果てしないユーラシア大陸の針で押したほどの地点に
身を置いて3日。
体力に自信のある人たちは「バザールでゴザール」と
洒落込みながら夜店へ出かけた。私は留守番。

 慣れない香辛料の複合された匂いは異常だ。
喉、鼻、目まで一層悪くなったようだ。
最後までこの香辛料と油気の多い食事は続く。
食文化の違いに悲鳴を上げっぱなしだ。

 沢山ある古城から
 高昌故城、交河古城を選んで続いて巡り、
古城の入り口に待機していた驢馬に乗り奥へ進む。
修復された古城もあったが、ほとんどは崩れたまま。
長い年月を経た日干しレンガは、城壁の役を終えて
土に還ってゆく。微風でも細い粒子の土埃が城跡に
舞い上がる。暑いが汗は全く出ない。
年間雨量16ミリという異常乾燥で、体内の水分が汗と
なって流れる前に蒸発するらしい。

 トルファンのオアシスの中の水は全部、地下水。
天山山脈の伏流水でカレーズ(地下水路)の水は冷たく
透き通っていた。カレーズはひんやりとして一息ついた。
灌漑用の水は茶色で流れも穏やかだ。葡萄の産地で建物は
人家より、葡萄の乾燥場の方が立派である。
 砂漠に慣れたのか、車内から感動の声が薄れてきた頃。
山肌が赤みを帯びてきた。火焔山である。
100キロメートルに及ぶという、赤い連峰に息を呑んだ。
焔の山裾を1時間も走っただろうか?
麓を南から北へ流れる小川があり、川端に檜、ポプラ、ニレ
などが自生していた。
眼下に見た赤に映える緑は格別美しかった。
川を挟んだ対岸の山は、侵食されていて、岸壁が切り立ち
奇怪な形を露呈している。
 中国は広い、火焔山のダイナミックさに圧倒された。

 夫の計画したシルクロードの旅とは大分差異があるようだ。
天山山脈は遥かに望むだけである。
あの山を、ジープやロバで越えようとしたのは無理だったようだ。

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