第6話 迷わず極楽へゆく

文字数 922文字

 恐山への旅は何度か企画したが
実現していなかった。
 2019年6月、息子の会社の慰安旅行で
青森、函館満喫の旅に出た。
 恐山が予定にあったので、勇んで便乗した。
東京から娘も合流して、またとない旅になる。
 薫風に、緑滴る奥入瀬渓流には「あゝきれい」を
連発。八甲田山は霞の中で何も見えない。映画八甲田
と重ねることもできない。少し心を残した。

 この世と彼の世の境には小さな橋がかかっている。
三途の橋の渡り賃(入山料)は五〇〇円。
車で渡った。並行して太鼓橋もあった。
「アッ」と言う間に彼岸に着いた。そこには現世とは
思えぬ風景が展開し、硫黄の匂いが全山に漂う気がする。

 恐山菩提寺は、開基依頼1200年。
信仰と祈りの場として伝えられてきた。
 賽の河原は、イメージしていたのと違って
明るい。宿坊や食堂もあり、陰は感じない。
 火山ガスの吹き出している岩場の辺りを
地獄とみなし、湖のほとりの白い砂浜は
極楽浄土として伝えられたと知る。

「一ツ積んでは父のため二ツ積んでは母のため」
小石を積んだ石塚が目を惹く。
現世の親が彼岸の子供を思い積んだのであろう。
「嫌な気を受けるから石や草に手を触れないように」
ガイドさんの注意があったが、
 数少ない草が所々で結ばれている。
 水子が別れた親を忍び石を積む。鬼が来て崩すから、
鬼の足止めに現世の親が草を結んでいるらしい。
親子は一世という親子の縁を思う。この諺に?

 供養されない例が霊山で蠢いているとその道の行者は
言い。霊能者は此岸と彼岸の橋渡しをした。
「イタコ」は今も残り、両岸の不思議を伝えていると聞く。

目的の「イタコ」には会えなかった。
霊能者は老齢化で予約を必要とし、
7月20日以降でないと会えないと知り、
諦めた。

白浜に立って黄泉の女性を呼ぶ男性がいる。
しかし女性の夫や男性を呼ぶ姿は見ないと言う。
どう、解釈すべきか?

 賽の河原の水は澄んで静かに漣を立てている。
が、魚はすまないそうだ。

 「どうせすぐ死ぬんだから」覚えておこうと、
地獄の入り口と極楽への道標を確かめた。
 私は迷わず極楽のへ道を歩む。
 好天で陰は感じなかったが、逢う魔がどきや、
しと降る雨の日は、身がひきしまだろうな。

 さようなら振り向かず
 三途の橋を後にした。






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