第13話 砂走り

文字数 478文字

 下界で見た冠雪のイメージとは異なり、
雪は色を変えてにわずかに陰にみた。
日本一の山を征服したという尊大な気は湧かなかった。
お山へ登ったという、よろこびが大きかった。
 もうくることはないだろう富士山を大事に脳裏にしまった。
 さあ降りようかという時になって花子の様子がおかしい。
私は、花子どころではなかったから、花子の面倒は夫が見ていた。
と言っても、胸突き八丁では、
花子が夫を引っ張っていたと言う者もでてきた。
花子は足の裏を火山岩で痛めたのだろう。全く歩かなくなった。
厚手の靴下を履かせたが後退りして前進はしない。

 こんなこともあらうかと、子供用の背負いを持ってきていた。
夫が背負った。下り坂で夫が転ぶたび、痛い、いたいと花子が泣く。

 見兼ねた兄が花子を抱いて砂走りを降りていった。
(花子は柴犬とスピッツの合いの子で、5〜6キロの痩せた犬である)

  みんなスイスイと夢心地で砂走りを滑り降りた。
  背中のリュックもリズムを取っている。風を切る音を聞く。
 もっと滑りたかった。あっという間に下界におりた。

  この後間もなく落石のため、砂走りの下山道は閉鎖された。



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