第11話 富士山

文字数 610文字

 引き越しのため断捨離していると、
行方不明になっていた富士登頂の写真が出てきた。
心が飛んで整理どころでなくなった。

 あれは、1981年8月も終わりの頃だった。
亡夫の企画した会社の慰安旅行。夫も健在だったし、
私の2人の友人も加わり、総勢25人と愛犬花子。

 5号目までバス。そこで予約しておいた剛力さんと合流。
表参道として栄えた富士宮登山道から出発。
十分も登らぬうちに友の一人と私は、どん尻になり、
馬の背に委ねる羽目になった。
プロの馬子の目には、最初から読めていたのだろう。
私に、ずっとついてきていたのだ。

 馬の背は思ったより高く、固くて乗り心地は今ひとつ。
モザイク状になっている森林限界や樹木限界をゆっくり眺めた。
カラマツの単木やミヤマヤナギが低い。風雪に耐えているのだろう。
火山灰や礫のところには、イタドリやイワスケなどの多年草が育っている。
 6号目にお中道(山の中腹を巡るコース)の交差点がある。
ジグザグの道のオンタデなどが茂る様を見ながら馬にしがみついていた。
火山荒原の道が7号目まで続いている。7号目で馬返し。

 7号目を過ぎると高山植物は影を潜め、道は道でなくなる。

 友が青息吐息になり、剛力さんが背負った。
さすが山男。苦もなさそうに先にどんどん登って行く。

 私は酸素入りの風船を吸いながら、なりふり構わず必死だ。
昏れないうちに目的地八号目の山小屋にたどり着いた。
 花子も夫と2人三脚でかろうじて到着したようだ。






 
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