第78話 米寿をへ迎えて(1)

文字数 722文字

表題は88歳の時、生かされたつれづれを纏めた冊子の中に書いた
くだりである。私の駄文を累計60000回も読んでくださった方々に
あれも、これも書かなくてはと思う。私は、やがて91歳になる。
時間が限られてきて今、狼狽えているところである。
 私は今、賃貸の2DKのマンションにひとりで住んでいる。悠々自適と
言う友もいるが、外観だけでは判断できない。侘びも寂も孤独も同居している。

 長かったような短かったような、幻かもしれない我が人生、米寿を迎えた。
 人は、顔も声も生きざまも十人十色である。父と、顔も朧な瞼の母に感謝して
いる。また、奇しき運命を歩んだ兄弟四人の縁に絆にありがとうと言いたい。
 私は今、年相応にまあ健康で、行きたい所へも行ける。食べるものは美味し
いし、語れる友達もいる。腹から笑い合える遊び仲間も、切磋琢磨する趣味の
同志もいて米寿万歳である。
 その昔、毎月21日にはお太師講があった。講は14〜15軒の隣組が順繰り
に当番制であった。父は胃病持ち、祖母は夜なべがあるからと小学一年の頃から
お太師講は私の出番になっていた。
 お先達はよく知ったおばさんが務めついた。おばさんの横に並んでお経をあげ
ているうちに、門前の小僧習わぬなんとやらで、いつ間にか、不動経も13仏の
御真言も、般若心経も誦じてしまった。
 あの世とやらの母の住む世界に関心を持ち続けた。少しばかりのお経を誦じた
ことで、異次元と世界が覗けるような錯覚を起こし、霊能者に憧れた時期があった。
 行者について滝行をしたり、霊山に登り臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前と
九字を切り修行に励んだ。が、何も変わることはなかった。凡、梵とした私は私で
あり、ついに異次元の世界を覗くことは諦めた。










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