第8話 グリーン車の旅

文字数 808文字

 国鉄(JR)が1981年に企画した旅。
「フルムーン夫婦グリーパス」と銘打って売り出したのは、熟年及び
老年夫婦を対象とした特別企画で、グリーン車乗り放題の旅だった。
「上原謙と高峰三枝子」が幸せな熟年夫婦を演じ、宣伝しポスター
は老人たちに夢を与えた。「御多分に洩れず」私にも希望をくれた。
列島縦断の夢を長い間持っていた。が、10日も仕事を休めるわけない。
その上、少ない費用では行けない。そこへ、国鉄が企画を立ててくれた。
 何年かして渡りに船とグリーン車の旅に出た。その頃、夫の健康は
優れず、入退院を繰り返していた。
1984年8月、肺ガンの宣告を受け、あと早ければ3月、遅くとも8〜9
ケ月と、余命を宣言された。

1985年1月、
 「雪国へゆこう」と言うことになった。夫は楽しみに計画を練っていた。
 私は、雪が大好きであるが、夫はどうであったのか。永遠に?のままだ。
が、私への最後の思いやりであったような気がしてならない。

 東京で在京の娘に会うため2泊した。夫の食欲はなかったようだが
最後と思ってか、ディナーもランチもホテルでも、娘を放さなかった。
細雪の舞う椿山荘のディナーは、色も褪せずに今も脳裏に残っている。
 
 大宮駅から東北新幹線に乗る。太平洋側を列車は北上するが、窓の外に
雪景色はない。次の宿泊地は花巻温泉。新幹線の新花巻駅は竣工前だった。

 在来線の青森駅。雪が降り、斜めに降りつけるから、駅のプラットホーム
にいても、肩や帽子に雪が飛びついた。寒かったのだろう。この雪は溶けない。
初めての東北。寒さに、私は着膨れていた。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」その通り。
「ほんと、ホントだった」感動で声もでないほどだ。そのうち、
感激に変わったら、今度は興奮して、「きれいなぁを連発」
白と黒の両極が歩み寄った自然の作った造形の世界。
とにかく雪の湯沢にのめり込んだ。
 湯沢温泉で宿を取る。深い雪、とくに雪が白かった。



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