第23話 昔日の遍路(1)

文字数 643文字

 昭和53年の春のころ、夫も私もまだ現役だった。
月1回を目度に商売繁盛、家内安全を祈願して愛犬(花子)
を伴って四国遍路の旅に出た。

 1番札所霊山寺で遍路装束を整えた。遍路の初日は四国山脈の
南の裾野に位置していて、道はよし、季節はよしで陽は高かったが
十番札所切幡寺で打ち止めにした。巡り出し良好だった。

 太龍寺、焼山寺などは阿波の高い霊山だった。三角寺も高い山
で阿波の地にありながら、讃岐路と呼んでいた。高いお山といえば、
やはり石鎚山(伊予)だ。石鎚山には修験道場らしきものもあった。
さすが四国一の高山、霊山である。

 あまり人との会話のない夫が、遍路中は行き交う遍路に「今日は」
「こんにちは」と挨拶を交わした。和やかな遍路旅だった。

 遍路宿や宿坊にお世話になりながら1年掛りでお軸2本と遍路衣、
ご朱印帳もできた。亡夫との遍路はこのたび1回のみだった。この後、
二男の少年野球の応援に夢中になり、巡礼の旅は棚上げになったまま、
月日は流れた。

 夫の没後、また巡礼の旅に出た。今度は先祖と亡夫供養の旅だ。
平成28年は閏年で、この年に逆打ち(88番寺から巡ること)
すると、お大師さんにお会いすることができるかも?と言い伝え
られていた。あわよくばと、逆打ちしたが、弘法大師にお会いする
ことはなかった。膝が次第に悪くなり、遍路旅はこれでお終い。

 思い出すと、友人を集めて先達したこともあり、修行半分、観光
半分。指おると七度、四国路を巡っている。が、
 忘れられない旅に一度だけ遭遇した。雨の午後だった。

 



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