第26話 黄山の旅(2)

文字数 683文字

 日焼けした若人が次々と砂やセメントを棒で担いで上がってくる。
環境保全のためと聞くが、資材は全て人力で運び上げている。
失業対策でないのかと思ってしまう。
 
 二階建ての大きくない宿に旅装を解く。
期待のホテルの温泉は茶褐色だった。

 待望の日の出を、見るため4時起床。
霊山は真っ暗だが、神々しいほど空気が澄んでいる。屯した現地の
若人は、日の出を見にゆく人たちに駕籠を勧めていた。
Yさんと私は電池を用意していなくて、前後の人の光のおこぼれを
頼りに登ってると、突然、若人が足元を電池で照らしてくれた。 

「シエシエ。シエシエ」と言うと「しやくげん。しゃくげん。」と返る。
何のことはない目的地に着くと「百元」と手を出されて、アッそうか
有料だったのだと、後で気がついて笑い種になった。

 格好の場所を探して私たちは陣取ったが足元は断崖絶壁。傾斜地
に這うようにして日の出を待っている。山が東へ傾くかと案ずるほ
どの人で埋め尽くされている黄山。
飛び交う聞き慣れない言葉からも人々の昂りが伝わってくる。

 山に張り付いて待つこと1時間。
 東が白み、そのうち赤い波が寄せるように横に広がりを見せ始めると
どよめきの後、「アッ」山は一瞬、静かになった。

 湧いたような暗雲が瞬きするうちに流れ、霧が走り岩も、松も、人間も
霧に飲み込まれた。不気味なざわめきが山いっぱいに起こった。
 
 やっぱり今日も駄目だったか。
 聞きしに勝る黄山の霧。日の出を諦めた人々は霧の晴れ間を待って
 潮が引くように降りていった。

  出発までの時間待ちの間、松の間の獣道を散策した。
  女郎花が咲いていて、霊山はもう秋だった。
 
 













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