第38話 雪深々と(4)

文字数 732文字

 彦根、米原のあたりの積雪は穏やかでない。
列車は今日も運行見合わせである。昨日から調べ通して些か
疲れた。閉じ込められたら、それはそれで良いと言っていたが、
いざ、足止めを食うと、凡人はいささか惑う。

 列車も出ないのに、若い人達は何組もアウトして送迎の車に
乗り込んだ。駅の電話は公表していないので直接駅員に聞くべく
私も車に乗り込んだ。若い人達は、駅からバスで米原までゆき、
米原から京都まで新幹線に乗るらしい。私も京都からなら幾らも
便がある。考えても見ないことだった。やっぱり応用も利かなく
なってしまった己のを改めて知る。

 送迎のバスの運転手に、すぐ戻るから待っていてと軽く言って
駅に駆け込み、運休を確かめて、急いで今乗ってきた車を探したが
見つからない。タクシーに乗るのも癪だから、エーイ歩こうと駅を
後にした。ところが幹線に出ると歩道は深い積雪。仕方なく車道を
歩く羽目になった。たかが千歩、されど千歩。幹線道路の車の運転
手さんには、ご迷惑をかけてしまった。5〜6台対向しただろうか、
みんなスピードを落として、泥跳ねまで気を使っていただいて、
ただ、ただ恐縮とお詫びと感謝あるのみ。

 フロントを通して念を押していたら、送迎バスは待っていて
くれただろう。年齢は重ねたくないものよのう。回転は悪いし、
応用は効かないし、その上独りよがりである。

 何はともあれこれだけの大雪に遭遇できたのだから幸運の証と
感謝しよう。そんなに急がなくても、明日は列車も開通するだろう。

 ここは(ホテルの窓辺)陽がさして琵琶湖に一筋の帯が輝いている。
北の山のあたりは今も降っているようだ。
木に積んだ雪はほとんど落ち、黒の多い墨絵の世界を飽きもせず今日も
ひとり眺めて、雪女は最高に満足である。12月28日







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