第9話 雪の庄内平野

文字数 468文字

 列車は日本海側を南下。
窓の外は雪ばかり。グリーン車両には夫と私のほか人影はない。
秋田の雪も深いようだ。
食いしん坊の私が列車の中で何か食した記憶が全くない。
おそらく夫の食欲に合わせていたのだろう。

 旅に出て5日。もともと寡黙な夫は黙って雪景色を眺めているだけ。
言葉のかけようもなくて私も黙る。列車は庄内平野に差し掛かる。

 雪が止んで日が昇り、銀世界の庄内平野を息を呑んで見る。
「きれいだなぁ、広いなぁ」
これが最後の旅になることをお互いに意識しながら、言葉には出せない
話せば、何かが壊れてしまいそうな、消え失せそうな、息ぐるしさ。

波打ち際の砂の城を見ているようだ。下関を越え九州までの旅はまだ長い。
旅はまだ半かばである。早く九州につかないものか。そこには義弟がいる。

 水が澱む。走馬灯という言葉は使いたくないが、それでも走馬灯のように
思い出が駆け巡る。昔は先生と呼んでいたこと、二人はよく喧嘩したこと。
貧に喘いだこと。亭主関白であり続けたこと。
 
 沈む心をどうすることもできない。普通になろう。私は焦っていた。。
 列車は庄内平野を抜けた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み