第25話 黄山の旅 (1)

文字数 734文字

 中国語を学んでいる何人かの友が、黄山、上海の旅を企画した。
リーダーのAさんとは古い付き合いだ。あれから三十年も経ったかも。
私は古典の中国が好きだ。黄山の写真を見て、飛びついて誘いに乗った。

 9月初め上海で一泊。蘇州沿岸のホテル周辺はまだ夜も暑く、涼を
求める人、人で溢れていた。
 上海空港から黄山空港まで50分足らずの空の旅。小さい窓からは、
幾つもの溜池や、2期目の青田、ここにも堺があるのだろう。微妙に
異なる田園を「何処も同じか」と見下ろす。蛇行した川に沿って点在
する集落が見える。群青色の大河も見え、長江かと思ったが同行のY
さんが新安江でないかと言う。

 降り立った黄山空港から黄山の登山口まで、バスで2時間。世界
第2の経済大国以前の中国がそこにはあった。貧しそうに映った。
 雲谷寺ー北海コースをとり、ロープウェイで8分登ると山麓駅。
たかが8分、されど8分。切り立った岩、深い谷。山水画さながら
の絶景に、ゴンドラは歓声に揺れた。
しかし、ここは序の口のようなものだった。
 
 標高1600メートルの山頂の陽はだいぶ傾き、程よい風は下界
とは比べ物にならない別世界だ。秋の訪れを告げている。

 山のアクセス道は全て長方形や正方形の石材を敷き詰めてあり、
ほとんど石段である。緩やかな傾斜の石段を登ると名木「黒虎松」
の勇姿に出会う。立ちくらみするような感動を声に出しながら
始信峰、清涼台と巡る。清涼台からの眺めは壮大の一語につきる。

 仙女峰の奇岩に石柱観音像が鎮座している。
 三角柱の岩が天をついている。千尋の谷に足をすくめ、岩に
根を下ろした巨大な松の数々に圧倒される。

 日は落ちて、遥かに望む一条の銀河。
 もう来ることはなかろうと
 息を止めて東から西へ、西から東へと脳裡に刻む。







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