第39話 過ぎたるは…

文字数 819文字

 積雪で逗留し、帰りの高速バスをキャンセルする。
列車が動き出したのでバスの席を確保しようとすれば、
歳末の帰省と重なって、早い時間の予約が取れない。それなら
お正月も、い続けようとしたが、ホテルは満室でキャンセル
待ちと言う。

 やれやれ、チェックインする時間の15時にチェックアウト
して、やっと動き出した列車に乗った。彦根の辺りの積雪はまだ深い
ようだ。これなら運休も止むを得ないと納得した。

 京都に着いた時はもう暗かった。真昼のように照り輝く駅には、
得体の知れぬ魔物が、数えられないほどいて、人間を呑み込んでは
吐き出す。を限りなく続けていた。
 呑み込まれのは嫌だ。急いで駅を出た。バスの出発場所と時間を
確かめて、トイレを捜した。私のようにキョロキョロしている人はいない。
 もう十年になるか、海外旅行は出来まいと、古くなったトランクは
捨てて、リュックに変えた。ところが先日、息子が当たったと手頃な
トランクを持ち帰った。それを借りかのだか、キャスターが2個しか
ついていない。あれはどうもいけない。
駅の外に長椅子があり腰を下ろしたが冷たい。リュックからカーデーガン
を出して敷くと、少し冷たさは和らいだ。
 見知らぬ土地でじっと時間待ちができなくて、お茶を飲み、お土産に
買ったお菓子を出して齧っていた。浮浪者さながらの体たらくである。
「旅の恥はなんとやら」万一知り人に見っかったらどうしようと、考え
なくもなかったが、それはそれで、いいじゃないか。
開き直った婆さんは、どこで何をするやら。冷や汗ものである。

 バスが来た。ほとんど若い人達だ。今しがた吐き出された若人のようだが
電波、テレビの普及で「おのぼりさんには見えない。足は長いし、スマートだ。
地方に居ても遜色はない。と、ほっこりする。

 21時、大変な思いで我が家に帰り着いた。やっぱり我が家が一番だ。
雪を見納めたつもりはないが、しばらくは雪、雪、と言わないだろう。

 目を閉じたら、雪は深々と降っている。



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