第58話 ままならず

文字数 1,040文字

 暑くも寒くもなく、毛布一枚で就寝したから晩春か?中秋の頃か。
夫の起業も小さいながら軌道に乗ったようだ。そしたらまたぞろ夫の
浪費と、どんぶり勘定が始まった。
 商事の基幹工事会社として四国で2社登録されていて、和歌山には
まだなかった。そこで和歌山の分も受け持つことになった。
営業といえば、商事の発注担当の機嫌を取ることであった。と言う。
従って月の半分は、主張と称して、家を留守にしていた。

出張は怪しいものと感じていたが、名医でも治癒することのできぬ癖
の病と、騙されたふりをしていた。が、突然腹が立ってきた。そんな折、
何かで学校が連休になった。

「みんなで大阪へゆこう。そしてホルで泊まろう。と中、小、幼稚園の
3人を連れて、夜行の連絡船に乗り込んだ。嬉しそうな子らの顔、顔。
 商事にいる夫を捕まえて「みんなできたから今夜はみんなでホテルで
泊まろう」
「ワシは打ち合わせもあり、今夜は接待もあるから、そっちは、そっち
好きにするが良い」以後連絡の取りようもなかった。多分こういう事は
承知で、子供を巻き込んだ抵抗(反乱)だったように思う。

 結局、此花にある従姉妹の家へ行った。そこは舎宅だったので小さく
狭かったが、従姉妹は、気持ちよく迎えてくれた。向こうも子供3人で、
子供たちは、すぐに仲良しになって、6人は束になって遊んでいた。
その夜、泊まることを子供達が約束事で決めた。しかし、従姉妹と私は、
どうして一夜を明かそうかと案じた。

 布団棚の布団は全部放り出した。何せ狭い家に先方5人と此方4人の
9人が寝るのである。押し入れの上段は取り合いがあったようだが、押入れ
の上下に2人、あと6人は、なんとか雑魚寝で納まった。が、
旦那さんは、申し訳ないことに台所で一夜を明かした。

 「嘘から出た誠」ではないが、思わぬ展開に子供たちは大いに喜んだ。
動物園へも、水族館へも連れて行った記憶がない。この後どうしたか?
夫との顛末も全く覚えていない。

 この従姉妹、夏休みにはずっと母親の故郷(私の生家)へ帰って
いたから、従姉妹以上の心の交流が続いていた。

思えば、私はこの従姉妹に甘えっ放しだった。大阪で働いていた時も、全線
一区のチンチン電車に乗り、土曜日から泊まりに毎週通った。泊まるのが
目的ではない。腹を満たすことが目的だったのだ。報恩する事は遂になかった。
この借りは誰かに返さなくては、虹の橋は渡れまい。まだ返せないでいる。

 雑魚寝の話。長男と娘は覚えていて
「朝食に出た茄子の漬物が美味しかった」と娘は今も言う。












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