第31話 南房総の旅(1)

文字数 564文字

 明石大橋の開通という時代だから二十数年も昔の事か。
四国は本州と陸続きになった。三月下旬、新神戸から新幹線と
京葉線を乗り継いで、夢の半島南房総へ旅をした。
 旅行シーズンだったろうか、ジバングの割り引きも適用され
なかったし、新幹線の指定席はほぼ満席の状態だった。
 米原が近づくと、連山の北斜面は残雪で白く、雪を冠った伊
吹山が驚くほど近くに見えた。
 その昔、よく利用した食堂車が姿を消したばかりだった。
前夜の残りの麦飯を二つ握って持ってきた。車窓の景色を楽しみ
ながら握り飯をほうばる。
 コットン、コットン。断続的な線路の枕木の音が夢の世界へ誘う。
夢と現の狭間でコツクリ、コックリ。心を癒してくれた列車の旅。
旅の醍醐味を味わいつつ一日がかりで目的地へ。

 思いはお花畑へ飛んでいたが、雨に降り込められ一日中ホテルで
過ごす羽目になり、なす事もなく大海を見ていた。
 春の嵐というのか、雨も風もだんだん強くなる。波の序破急だなどと
呑気な事を言っては居れない。磯の岩に砕ける白波が高くなったなと、思
う間も無く、一艘の釣り船が波に呑まれた。
「アッどうしよう」と一瞬息をのんだ。波を逃れた小舟は、
浮上したかに見えてまた、視界から消えた。

 季節は少し早いようだけど、これは卯波のさ先がけだろうか
 小舟はついに姿を現さず、波頭はいよいよ高く白くなった。


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