第61話 人間革命(1)

文字数 995文字

 壺で登場したMは、息子を統一教会からなんとしても引き離したい。
あの手、この手を尽くしたがどうすることもできない。そんな折、
知り合った大学教授から、福岡の摩訶不思議な寺院を紹介された。
百聞は一見にしかずと、4泊5日の修行を終えた。
 昭和54〜55年の頃か?亡夫に進めたが、亡夫は耳も貸さない。
「人間革命を自力でできる。多くを語る必要はない、兎に角いって
見て、修行してくることだ」とMは仕切りに薦める。

 毎日のように雨が降っていたから梅雨の時期だったのかもしれない。
長男も娘も、すでに県外に居を移していたから、留守は亡夫と二男。
何の憂いもなく、修行の寺院に乗り込んだ。
「生まれ変わってくださいね」と4畳半の個室に閉じ込められた。
与えられたのは、ブッタの生涯を書いた一冊の本のみ。午後3時が
来たら、修行僧がくる。
「御本は読んでいますか「はい「どう思われますか」?
どこに感動しましたかに始まり、両親、兄弟、家の環境、青春、結婚
夫、今の生活、私の不平不満をたぐりよせるように吐露さす。
出産と倒産と夫の病が重なって暗闇の中にい事を話すと
「それは大変でしたねー」と優しい。何をいっても決して否定しない。
 窓の外は雨、言葉を交わすのは訪ねてくる僧のみ、その僧に過去を
語る1時間は短かった。後は、正座してひたすらブッタを読む。
私は、胸のつかえが日に日に収まって行くのを覚えた。それは、
旱魃の大地に雨が染み込むように。

 5日目は朝から僧が来て、本堂に案内された。御本尊の御前である。
私が4日間、吐露した事は全て私が悪と言う。夫の浮気も、片親で育てられた
事も。片親で育てられるのは普通で無い。普通でない子を普通にお付き合い
してくれた友に、隣人に感謝しなさい。人間は感謝に始まり感謝に終わる。
 錯乱しそうだった。反省し、心から感謝できるまで時間は十分あります……。

 私が間違っていました。家族にも詫びます。夫にも子どもにも感謝します。
命を与えてくれた父母に感謝します。全ての人に感謝します。誓約して解放された。

 私ばかりが悪いとは今も思っていないけど、あの5日間は正に
人間革命の100時間だった。ホテル代より高かったけど、大いに意義があった。

 ここにきて、仕切りにMに会いたいと思う。お互い高老の身。
会うのもままならない。会えぬまま今月に入って友が2人も虹の橋を渡った。
Mにはどうしても話しておきたいことがある。







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