第41話 兄弟(はらから)1

文字数 551文字

 頃は昭和初期、大戦前の草深い山里に住む(はらから)。
病気の母と曽祖母、祖母3人の兄弟と私。7人の家族は寄り添い
ひっそりと暮らしていた。弟は父が出征してから産まれた。その父は
支那の前線で被弾し、野戦病院から送還された。同じころ結核を病ん
でいた母は、弟の一歳の誕生日も待たず旅だった。
 母の棺は、出棺できず門の内で父の帰るのをじっと待っていた。
葬儀に遅れて帰った白ずくめ父は杖に縋って立つのがやっとの風情だった。
「あれがお父ぞ」と叔母に教えられたが、怖いもの(幽界)を覗くように
おどおどしながら見ていた。出棺が済むともう父の姿はなかった。

 母の葬儀の三日後。10歳の長兄は、弟を背負い、弟を母の実家の祖母に
預けるべく、祖母の家に連なる峠への道を急いだ。

 村境の峠に古びたトンネルがあり、所々で内壁の割れ目から水が
「ピチャン、ピチャン」と落ちていて、200メートル先のトンネルの出口は
丸く明るくずいぶん遠くに見えた。

 ぱたぱたと自分の足音が追いかけてくる。立ち止まれば足音も止まる…足音と
滴る水の音が暗い空間で交錯して、無気味というより恐ろしかった。出口がちか
づくと一気に駆け出した。空腹を覚えたのだろう背中の弟はよく泣いた。

☆ 「門のルーツ」と錯覚してしまった。「2」は「門のルーツ」」へとつづく。



 


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