第58話 宗像の想い

文字数 1,691文字

 芝生で少し遊んだ後、大木戸門を抜け、遥の部屋で翔太の……いや遥のお待ちかねのゲーム大会。
 私はと言えば見学者に徹するつもりでいたのだが四歳児同士の白熱する対戦プレイが大いに盛り上がり、途中から一緒になって遊んでしまった。
 
 散々遊んでさすがに疲れたのか、翔太が眠そうだったので遥のベッドで少し昼寝をさせてもらうことにした。
「朝が早かったので、すみません」
「ううん、うちは大丈夫だから」
「帰りには起きててくれた方が良いので、助かります」
 翔太が寝ているならばと、中断していた宗像君の話の続きだ。
「ウォーキングのコースから外れた藪の中を歩いて来るって変だよね」
「えぇ。やっぱり幻星の昴を探していたのでしょうか」
「うーん……あれは探そうと思って見つかるものじゃないけど、その可能性はあるかも」
「では、宗像君は想叶者ではないと……?」
「ううん。俺はやっぱり宗像さんは想叶者だと思う。……幻星の昴は人間に売れば莫大な金額になるらしいし、それを生業にしてる者もいるって聞いた事あるんだ」
 想叶者が見つけた場合は持ち帰ることも可能だし、転売ということもできるわけか。宗像君はケガで仕事ができない期間もあったし……もしかしたらお金に困っているのだろうか?
 しかし、あれが強欲な人間の手に渡った場合は……。
「……まさか俊郎さんを探していたとか……」
 うわ……。敢えて言葉にしなかったのに、はっきりと言われると恐ろしい。
「あ……俊郎さん、ごめん」
「いえ、偶然にしてはおかしいと思っていたので」
 あの招き猫を詠んで、私との関連性に疑問を持っているのだとしたら……。死を免れ、シオリさんを助けたことまで知られていたらどんなことになるだろうか。
「招き猫のことを知られていたとしても、あの女と宗像さんに接点があれば、あの女の方から何かしてくると思うんだけど」
「あの黒髪の女性の目的も分からないですし、一体何が起きてるんでしょう……」
 遥が唇を噛む。
 その謎を解き明かしたがってるのは遥自身だ……。
「機会があれば宗像さんに、あの日の夜の事だけでも聞きたいのに……」
「でも、私が聞いた彼の証言と、遥君が彼に書いてもらったメモと相違点があることを指摘するには、遥君の素性を明かすことにもなります」
「うん……」
 今日の事がなければ、『たまたま想叶者が入社してきた』くらいで済んだのに。
 小野君の事と招き猫の事、この二つを繋ぐ宗像君をこのままにしていて良いのだろうか……。
 満月が好きだと言っていた宗像君の望む「良いこと」とは何なのだろう。

 小一時間ほどで目を覚ました翔太が辺りを見回して少し驚いたので、遥の部屋だと説明すると、寝る前の事を思い出してニコニコしている。
「はるかくんのおへや、かっこいい!」
「そう?」
「うん!」
「翔太君も、自分の部屋はあるの?」
「あるよ!」
「まだ小さいので今は何もない部屋ですが、一応」
「じゃあ、翔太君がもう少し大きくなったら俺も遊びにいこうかな」
「ほんと?」
「うん!」
 夕飯には帰るからと祥子さんと約束をしていたので、そろそろお(いとま)する時間だ。
「遥君、お邪魔しました」
「ううん、また遊びにきて!」
「はるかくん、バイバイ!」

 帰り道の途中、翔太との思い出や幻想世界の風景を綴ろうと思い、画材屋に寄ってスケッチブックとパステルや色鉛筆を見繕うことにした。
 ……画材屋なんて何時(いつ)ぶりだろうか。とても懐かしい匂いがする。
「ぼくもおえかきしたい」
「翔太はクレヨンがあるよね」
「パパとおなじのがいい」
「……じゃあ同じのを買おうか」
「うん!」
 大小のスケッチブックと十二色のパステルのセットをカゴに入れ、レジの列に並ぶ。
「パパ、あれみていい?」
 翔太が指差したのはパステルの棚。レジは目の前だし、目が届かない場所ではない。
「良いけど、触ったらだめだよ。それから動かないこと」
「わかった!」
 たたた、とお目当ての場所に向かって行った。色とりどりの画材はは魅力的だから仕方がない。
 明日の日曜日は親子でお絵描きしよう。私が子供の頃は叶わなかったことだし、今から楽しみだ。
「翔太、次は下で色鉛筆を……あれ?」
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