第72話 EX編2 夢の狭間
文字数 1,055文字
ちょっと古びた紙に、小さな足跡を二つ。
『あの歌が好きなのです』
眩しい街の片隅で、私たちは彼女を見守っている。
* * * * * *
太陽が西の高層ビルの向こうに落ちると、とたんに気温が下がる。
街はもうイルミネーションに彩られて、そこかしこで光がキラキラと笑っている。
毎週土曜日の夕方、私はここに立って演奏する。今はまだ音楽学校に通いながら夢を食べて生きている。
毎日、憧れと現実の狭間に漂う夢が食料だ。
アーティストのカバー曲を歌えばそれなりに足を止めてくれる人は多いけど、無名の私の歌だけでは、ほんの数人ほど。それでも聞いてくれる人がいるからと頑張っている。
何より、歌うのは何より楽しい!
周りのイルミネーションも最高の舞台演出。だから寒いけれど12月は大好き!
赤茶色の髪をかき上げてギターを肩から掛けて準備が整うと、人ごみの中から男の子がやってきた。……どこの国の子だろうか。それはそれはとても綺麗な瞳の男の子だった。
「おねえちゃん、えっと、あのお歌うたって」
人生で初めてのリクエストは、こんなに可愛い男の子から。
「どのお歌かな?」
「えっと、ネズミさんの歌」
あぁ、作詞したのは私がまだこの子くらいの歳だったろうか。田舎のネズミが美味しいものを探しに優しいカラスの背に乗って旅にでるという歌。
「いいよ、聞いてて!」
私の原点ともいえるべき歴史ある曲は、前にもここで歌ったことがある。子供の頃に書いた歌詞と曲ということもあって雑踏の人々は足を止めることはなかったけど。
ねぇ からすさん
おいしいもの たべにいこう
こないだテレビでみちゃったんだ
ふわふわクリーム きれいなケーキ
はれのひ あめのひ かぜのひ ながいよる
きっとあしたも すてきなひ
そのつばさで つれてって
まさかこの歌をリクエストされるとは夢にも思ってなかった。イルミネーションの中で歌う童謡のような歌は、この子に夢のように聞こえるかしら。
演奏が終わると、男の子は瞳を輝かせ、万歳でくるくると回る。
『よかった こんなに喜んでくれてる』
男の子が両手を差し出すと、そこにはいつのまにか一粒の可愛い金平糖があった。
「おねえちゃん、ありがとう。これお礼!」
まぁ、可愛い。
「ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しいよ」
男の子がくれた金平糖、よく見ると内側からぼんやりと光っていて、なんだか胸が温かくなった。
そしてまた、夢を食べながら胸を焦がす。
* * * * * *
私たちの冒険を歌ってくれた彼女に、ささやかな感謝を。
『あの歌が好きなのです』
眩しい街の片隅で、私たちは彼女を見守っている。
* * * * * *
太陽が西の高層ビルの向こうに落ちると、とたんに気温が下がる。
街はもうイルミネーションに彩られて、そこかしこで光がキラキラと笑っている。
毎週土曜日の夕方、私はここに立って演奏する。今はまだ音楽学校に通いながら夢を食べて生きている。
毎日、憧れと現実の狭間に漂う夢が食料だ。
アーティストのカバー曲を歌えばそれなりに足を止めてくれる人は多いけど、無名の私の歌だけでは、ほんの数人ほど。それでも聞いてくれる人がいるからと頑張っている。
何より、歌うのは何より楽しい!
周りのイルミネーションも最高の舞台演出。だから寒いけれど12月は大好き!
赤茶色の髪をかき上げてギターを肩から掛けて準備が整うと、人ごみの中から男の子がやってきた。……どこの国の子だろうか。それはそれはとても綺麗な瞳の男の子だった。
「おねえちゃん、えっと、あのお歌うたって」
人生で初めてのリクエストは、こんなに可愛い男の子から。
「どのお歌かな?」
「えっと、ネズミさんの歌」
あぁ、作詞したのは私がまだこの子くらいの歳だったろうか。田舎のネズミが美味しいものを探しに優しいカラスの背に乗って旅にでるという歌。
「いいよ、聞いてて!」
私の原点ともいえるべき歴史ある曲は、前にもここで歌ったことがある。子供の頃に書いた歌詞と曲ということもあって雑踏の人々は足を止めることはなかったけど。
ねぇ からすさん
おいしいもの たべにいこう
こないだテレビでみちゃったんだ
ふわふわクリーム きれいなケーキ
はれのひ あめのひ かぜのひ ながいよる
きっとあしたも すてきなひ
そのつばさで つれてって
まさかこの歌をリクエストされるとは夢にも思ってなかった。イルミネーションの中で歌う童謡のような歌は、この子に夢のように聞こえるかしら。
演奏が終わると、男の子は瞳を輝かせ、万歳でくるくると回る。
『よかった こんなに喜んでくれてる』
男の子が両手を差し出すと、そこにはいつのまにか一粒の可愛い金平糖があった。
「おねえちゃん、ありがとう。これお礼!」
まぁ、可愛い。
「ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しいよ」
男の子がくれた金平糖、よく見ると内側からぼんやりと光っていて、なんだか胸が温かくなった。
そしてまた、夢を食べながら胸を焦がす。
* * * * * *
私たちの冒険を歌ってくれた彼女に、ささやかな感謝を。