第53話 巡る想い

文字数 535文字

「そもそも、招き猫っていうのは招福祈願をするもんだ。普通は縁切り祈願なんてしないだろう」
 背中を冷たいものが流れて行った。
「まぁ、例え詠む力があったとしても、入社して間もない宗像氏が俊郎さんの幻想波をあらかじめ把握しているというのも考えにくいんじゃないか?」
 宗像君とは仕事ではほとんど接点はない。初日の書類は遥が印刷したものを宗像君が記名捺印しただけだ。新規採用者に必要なものも遥が手配して渡しているし、私の気配を詠めるようなものはない。
「確かに……そうですね」

「あともう一つ。昨日は最後まで会社に残っていたのは小野さんと宗像さんで間違いなくて、その時二人に何かあったんじゃないかって思っているんだけど……」
「招き猫を持ち出したのは小野君で、それを宗像君が『昨晩帰る時に拾った』となると、廊下で挨拶をした時に小野君が落としてしまったと考えられるのですが、それだと少々不自然なんです」
「俺は会社の見取り図を知らんから何とも言えんが……」
 遥がノートに人事部と営業部と社員の通用口の位置関係を描いて八神さんに見せた。
「人事部がここで、このドアを出て左手にぐるりと回りこむと短い通路があるんだ。で、すぐ営業部。営業部の前に通用口があって普段、社員はそこから出入りしてるんだ」
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