第63話 水溜り6

文字数 453文字

 水溜りにはまった出来事を、とりあえず事故と呼ぶことにして。
 自分の名前や住所は記憶にあるとおり。
 けれどもそれ以外の――人間関係については、ほとんどデタラメだった。
 一番驚いたのは、勤め先。
 あの事故現場の企業、どうしても転職したくて必死で面接に向かっていた会社に、なんと私は勤めているらしいのだ。
 そりゃ、嬉しいっちゃ嬉しいけれど……退院したらどんな顔をして出勤すればいいのだろう。

 目覚めたその日も念のため入院することになったので、暇を持て余した私はスマホで思いつく限りの史実を調べてみた。
 といっても、元々あまり歴史に興味のあるほうではないので、答え合わせできる事例は少ない。

 刀狩りは1588年。
 第二次世界大戦の終戦は1945年。
 911のテロは2001年。
 東日本大震災は2011年。
 どれも記憶にあるとおり。

 もしかして、1日寝て目が覚めれば元通りになっているかもしれない……なんて思いながら寝てみたけれど、翌日迎えに来てくれたのはやはり、見知らぬ自称お母さんだった。
 そのまま今日に至る。
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