第11話 見知らぬ駅についた1

文字数 1,108文字

 俺は、怖い話の中でも異世界とかパラレルワールド系の話が好きだった。
 異世界ってもRPGみたいな世界に行く話じゃないぞ。
 今のこの現実世界とほとんど同じなんだけど、微妙に違う――たとえば空の色が真っ赤だったり、信号機の色が赤黄青じゃなかったり、過去に起きたはずの事件や災害が起きていなかったりする、こことは少しだけ違う世界のことだ。

 それ系の話が好きで、暇を見つけちゃネットで検索して読み漁った。
 だがすごく残念なことに、ほとんどが作り話なのか体験者がバカすぎるのか、異世界に行っても証拠になるようなものを絶対に持ち帰らないんだよな。
 スマホ持ってるはずなのに、動画はおろか写真さえ撮らない。
 異世界にだって新聞やら雑誌やら、何かしら持ち帰れる物があるだろうに、手ブラでこの世界に戻ってきてしまう。

 いやー、不甲斐ないよな。
 そりゃ急に得体の知れない世界に移動したらパニクるだろうし怖いかもしれないが、ビビりすぎだろ。
 もし俺が異世界に迷い込むチャンスがあったら、絶対、命に換えても何らかの物的証拠を持ち帰るのにな。
 こうやって常日頃から異世界行きに備えているから、俺の身にはそういう出来事が起こらないのかもしれないと思っていた。

 ところが、それは突然起こった。

 その日もようやく座れた出勤中の電車の中で、異世界や世界の成り立ちについて考えていた。
 自分はなぜここにいるのか、時間はどのように流れるのか、この世界は太陽系の中に存在する惑星で本当に合っているのか……などなど。
 昔からこういうことを集中して考えていると、突然フッと変な感じになることがあった。
 自分が自分でなくなるような感覚というか、今初めて自分の中に入ってきたようなというか。
 そのままの状態でいるとどうにかなってしまいそうな、二度と元に戻れないような恐怖感が増大してくるから、いつも途中で思考を辞めてしまう。

 でもその日は違った。
 前日に仕事で問題があって、すべてが嫌になっていたんだ。
 だからどうにでもなれという気持ちでいた。
 例のその変な感じになっても思考を続けていたら、気づいてしまったんだ。
 この世界っていうのは、実は――。

 そこまで考えたとき、強烈な睡魔が襲ってきた。
 全身麻酔はやったことないからわからないけど、検査入院で鎮静剤を打たれたときみたいな、必死にまぶたを開けておこうとするのに全然抵抗できなくなるような、不自然な睡魔。
 やばい、何かが思考を邪魔しようとしている。
 俺はとっさに左ポケットに手を突っ込み、仕事で使うボイスレコーダーを操作したところで意識を手放した。
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