第28話 百物語3

文字数 913文字

 3番めはマサル大王。
 語り自体がめちゃくちゃ不気味で、まだ何も起きていない日常の描写からすでに怖い。
 こいつ……怪談の語り部の才能があるのでは。

「……で、そのキッチンの引き出しに手を入れた瞬間、激痛が!
 なんと、刃が上向きになったむき出しの包丁が入っていたんだ……」
「やーだー! 痛ーい! こわーい!」
「ちょっちょっちょ!」

 耳をふさいで悲鳴を上げるスグキラバー。
 即座にツッコミを入れる僕。

「いや、語りがうますぎて思わず聞き入ったけれども!
 それダメだから。
 心霊ネタじゃないと」
「えー。
 でも狂人出てこないし、時空ネタでもないし、いいかなーと」
「ダメです。
 3話めはこれでいいけど、次は気をつけてね」

 4話め、僕。
 さっきの話があまり怖くなかったので、有名ドコロではあるが抜群に怖い話。
 いわくつきの空き家に侵入したら一緒に入ったヤツが自分の髪をずっと食うようになった話。
 良かった、純粋に怖がってもらえた。

 5話め、スグキラバー。
 職場の先輩から聞いたという話。
 ツーリング中にナビアプリが不調になるが、なんとかナビ通りに進むと、今にも潰れそうな古いお社の前で「目的地に着きました、案内を終了します」。
 怖くはないが、面白い話だ。

 6話め、マサル大王。
 おどろおどろしい語り口は完璧。
 今度こそ頼むぞという気持ちで聴き続けていると……。

「水を全部飲んでしまい、氷でもなめようと思って水筒をのぞき込んだ。
 すると氷の下に、潰れた大きなクモが……」
「ぎゃー! キモーい! 無理、マイボトルで水飲めないー!」
「おいいいい、マサル大王!」

 またしてもマサル大王に説教するハメになる。
 だが僕は気づいている。
 マサルは1周めが終わったときと今回の2周めが終わったとき、少しずつモニターの光度を下げているのだ。
 ロウソクを消していくという演出ができない中、可能な限り本家百物語に寄せた工夫をしてくれている。
 今回のイベントを茶化そうとか、台無しにしてやろうなどという気持ちはないに違いない。
 コミュニケーション不足で少しだけ理解度が足りないだけなのだろう。
 だからもう、今回はマサルはこういうキャラということにして百物語を続けた。
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