第4話 引き寄せの法則

文字数 956文字

 最近、全然いいことがなくて。
 電車に乗ろうとすれば、降車客が降りる前に我先にと乗り込む奴に空席を取られ。
 会社に着けば無能上司がいて、指示と少しでも違うことをすれば理解力不足、逆にこちらの報告が一度で伝わらなければ説明力不足でどちらにせよ自分がミスしたことになり。

 だから試してみることにした。
 引き寄せの法則、ってやつを。

 希望をできるだけ具体的に書けばいいらしい。
 たとえば、「金持ちになりたい」じゃなくて「宝くじが当たって金持ちになりたい」みたいに。

 今の仕事がうまくいきますように?
 上司が左遷されますように?
 うーむ、なんだかちっちゃいよね。

 どうせ書くだけだからタダだし、正直なところ効果なんて信じちゃいない。
 それなら、実現可能と非現実的のギリギリを攻めてみようと思った。
 で、まっさらなノートを出してきて、こう書いた。

◎週4の4時間勤務で何不自由なく暮らせますように

 働かなくても暮らせれば一番いいけれど、それってあまりにも非現実的。
 今の仕事が続いてもいいし、転職した先のことでもいい、その辺りは引き寄せの法則にお任せする。
 そして寝た。

 ベッドに入って目を閉じて、そろそろ眠気が来るかなというときのこと。

 ガチャ

 不意に寝室のドアの開く音がした。
 一人暮らしだし、玄関のドアはロックもチェーンも確かにした。

 …キキ……

 ドアを少し空けて、部屋には入らず中をのぞいているというのが容易に想像できる音。
 いや、目を開けて確かめてみればいい話だというのは重々承知しているけれども。
 怖くてそんなことできるわけがない。
 人の気配はしっかりある。
 まだ、ドアの隙間からこっちを見ている。

 パタン

 ドアの閉まる音がした。
 気配は消えたような気もするけれど、ゴルゴじゃあるまいしよくわからない。
 でも立ち去った足音はしない。
 ドアが開く前も足音はなかったから、そういう存在だったらいいのだけれど。

 一番嫌なのはさ。
 こうやって「終わった」と思わせておいて、ホッとして目を開くと真ん前にいるパターン。
 それが怖くて。
 意地になってそのまま寝た。
 翌朝は何事もなかったけれど、何だったんだろうアレ。

〈終〉
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