第49話 川辺のダンボール5

文字数 608文字

 男の手が女の腹に潜り込んだ。
 そうかと思うと、血まみれになって出てきた。
 手につかんだ何かを、画面の外に投げ捨てたような、重く湿った音がする。
 それが、何度か繰り返された。
 女は微動だにしない。

 次に男の手は、何かをにぎって女の腹に詰め込みはじめた。
 何を入れているのかは、手が邪魔になってよく見えない。
 何回かの動作の中で、腕時計みたいなものが見えたような気がしたが、定かじゃない。

 それから女の腹を閉じて押さえ、馬鹿でかいホッチキスみたいなので雑に4箇所留めたところで映像は突然終わった。
 時間にして15分もなかったみたいだ。
 意味もわからず、つい全部見てしまった。

「なに、これ」

 1人が言った。
 それがわかれば苦労しない。

「解剖の映像、とか?」
「スナッフビデオじゃないか? 実際の殺人を撮影したやつ」
「え、それって」
「違法。もちろん違法」

 いずれにせよ確かなことはひとつ。
 これは、見てはいけない類の映像だった。

「明日、ダンボールに戻しておこう」
「そうだな」

 DVDプレイヤーの持ち主の提案に、異論を唱える者はいなかった。
 あんなにウキウキだった気分は急転直下でお通夜もかくやというほどに下降した。
 誰も何も話す気分にはなれず、自分の取り分のDVDを各自リュックの奥に詰め込んで寝た。
 このDVD全てに、今見たのと同じような映像が収められているのだろうか。
 そう考えると、気味が悪くてなかなか寝付けなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み