第67話 古井戸3

文字数 487文字

 ……なんだけど、もう十何年もふさがれていた古井戸の中が気になり、のぞきこんだ。
 思ったよりだいぶ深く、真っ暗で底が見えない。
 でも、下のほうに白いものが見えた。
 なんだろう、と思って少し考えて、自分の顔が映っているだけだとわかった。
 なーんだ、と肩の力を抜いた瞬間。
 白いものがとんでもない勢いで迫ってきた。
 枯れた古井戸で顔が映るはずがない。
 駆け上がってくる白いものは、確かに人の顔だったけれど、自分とは似ても似つかない。
 そう判断できるほど距離が縮まったとき、わたしは悲鳴を上げて気絶してしまったらしい。

 気づいたときには、2階の自分の部屋に寝かされていた。
 そして、弟が亡くなったと聞かされた。
 全然意味がわからない。
 お通夜? お葬式? そのとき、棺の中には花がギッシリ詰まっているだけで弟はいなかった。
 他に身内で亡くなった人がいないからわからないんだけど、普通は遺体があるものだよね?

 今でも古井戸は実家に残っている。
 なぜか取り壊すことも埋めることもせずに。
 あそこから()い上がってきた白いものがなんなのか、その後どうなったのかはまったくわからない。
〈完〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み