第14話 見知らぬ駅についた4

文字数 697文字

 至近距離。
 俺の顔から3センチと離れていない距離に、何者かの顔がある。

「とったんだろ、けせ」

 俺は夢中で頷きながらポケットに手を突っ込み、取り出したスマホを操作した。
 画像アプリを立ち上げ、動画も写真も残らずゴミ箱にぶち込んだ。

「んっふ」

 そいつの笑い声なのか何なのかわからない声がして、俺は再び意識を失った。

 首が痛すぎて気がつくと、そこはいつもの満員電車の風景だった。
 そろりと顔を上げると、前に立っていた人と目があった。
 なんつー寝方してんだコイツ、みたいな顔をしていた。
 でも戻れたことがとにかくうれしくて、俺は微笑んだと思う。

 にぎりしめていたスマホを立ち上げ、そのまま会社に欠勤のメッセージを送った。
 嫌な汗をかいたし、とにかく疲れた。
 とても仕事ができる状態じゃないから、早く家に帰ってシャワーを浴びて昼寝したかった。

 午後4時頃に目が覚めた。
 あの出来事は、現実のことだったのか。
 あまりにもリアルな恐怖が薄れたわけではなかったが、もはや手元に証拠は何もなく、確かめる術はない……。

 しかし、思い出してしまった。
 俺は布団から飛び起きてジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
 ある。
 電源は切れているが、異世界に移動する直前に録音を開始したボイスレコーダー。

 急ぎ充電ケーブルに接続し、電源を入れる。
 あるぞ、確かにある。
 電源が切れるまで延々録音を続けていてくれた、めちゃくちゃ容量のでかいデータが!

「おい」

 俺は反射的に行動した。
 すぐさまデータの名前を長押しし、消去を選択。

「んっふ」
〈完〉
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