第53話 カマキリの死んだあと2

文字数 628文字

 残業を終え、遙かなるワンルームに帰宅する際、ちょっとだけ期待していた。
 カマキリの死体がなくなっていればいいな、なんて。
 しかし人生は無情だ。
 馬車馬のように働いて帰宅しても、カマキリの死体はそのままの状態で残っているのだから。
 嫌だなあ。
 だってカマキリって、ハリガネムシが寄生していると言うじゃないか。
 あの気味の悪い虫が腹を食い破って出てくるかと思うとゾッとする。
 そうかといって、自分で片づける勇気は到底ない。
 あまり遠くない未来に、清掃の人が片づけてくれるのを祈るほかないだろう。
 僕はまた不自然な体勢で鍵を開け、大股で家に入った。

 翌朝、カマキリの死体はまだあったが、帰りには片づいていた。
 僕はようやく普通の体勢で鍵を開き、常識的な歩幅で家に入る事ができたのだった。
 めでたしめでたし。

 布団に入っても、カマキリの事を考えなくて済むのはスバラシイ。
 ただ……妙な感覚を覚えるようになった。
 視線を感じるというか、誰かに見られているような気がする。
 そこでピンと来たね。
 これはアレだろう、カマキリの呪いに違いない。

 寝返りを打ってさらに5分がすぎた頃、僕はその考えを否定した。
 常に地面を見つめて歩く僕だぞ。
 自分でカマキリを踏むはずがない。

 僕は思わず声を上げ、布団から飛び出した。
 そして玄関のドアを見つめた。
 何もない、闇が広がっている。

 数秒後、ドアから光が差した。
 普通なら常に覗き穴から差し込んでいるはずの、外の明かりが。
〈完〉
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