第57話 ホクロ3
文字数 704文字
で、ついひと月ほど前のこと。
実家に帰るため深夜バスに乗ろうとした。
時間ギリギリでようやく車内に駆け込んだとき、乗客全員の額にホクロがあった。
「やっぱいいです! 降ります!」
反射的にに大きな声をあげてバスを降りたから、荷物を積み込もうとしていた運転手さんがビックリして私を見た。
運転手さんの額にもホクロがあった。
気が動転してそのまま家に戻り、コタツの中で震えていた。
またしてもスマホに速報のテロップ。
あとはご想像通り。
そして、今日。
顔を洗って鏡を見たら、自分の眉間にホクロがあった。
へー、そっかそっか、と思った。
死にたくないと思えるほど、自分はこの世に執着するものがない。
死ぬのはウェルカムだけれど、できればメチャクチャ痛かったり苦しかったりする死に方は嫌だなと思った。
一応、自分の命日になるわけだから、仕事は無断欠勤する。
急なことだから、最後に食べたいものを食べて終われるかどうか、といったところか。
急いで家族に「今までありがとう」と手紙を書き、全財産を持って家を出る。
今から飛び込みで料理を食べさせてくれるレストランを探している時間が惜しい。
ホテルのランチバイキングで、カニ食べ放題のあるところ。
最後の晩餐はこれでいい。
駅に近づくと、笑いがこみ上げてきた。
改札口へひっきりなしに吸い込まれていく大勢の人、吐き出されてくる人、そのすべての眉間にホクロがあった。
振り返れば、犬を連れたマダムも杖をついたおじいさんも、親子連れもタクシーの運転手さんも、みんなみんなもれなくホクロがある。
いつかこんな日が来るかもしれないと思っていたけれど、そうか、今日だったか。
〈完〉
実家に帰るため深夜バスに乗ろうとした。
時間ギリギリでようやく車内に駆け込んだとき、乗客全員の額にホクロがあった。
「やっぱいいです! 降ります!」
反射的にに大きな声をあげてバスを降りたから、荷物を積み込もうとしていた運転手さんがビックリして私を見た。
運転手さんの額にもホクロがあった。
気が動転してそのまま家に戻り、コタツの中で震えていた。
またしてもスマホに速報のテロップ。
あとはご想像通り。
そして、今日。
顔を洗って鏡を見たら、自分の眉間にホクロがあった。
へー、そっかそっか、と思った。
死にたくないと思えるほど、自分はこの世に執着するものがない。
死ぬのはウェルカムだけれど、できればメチャクチャ痛かったり苦しかったりする死に方は嫌だなと思った。
一応、自分の命日になるわけだから、仕事は無断欠勤する。
急なことだから、最後に食べたいものを食べて終われるかどうか、といったところか。
急いで家族に「今までありがとう」と手紙を書き、全財産を持って家を出る。
今から飛び込みで料理を食べさせてくれるレストランを探している時間が惜しい。
ホテルのランチバイキングで、カニ食べ放題のあるところ。
最後の晩餐はこれでいい。
駅に近づくと、笑いがこみ上げてきた。
改札口へひっきりなしに吸い込まれていく大勢の人、吐き出されてくる人、そのすべての眉間にホクロがあった。
振り返れば、犬を連れたマダムも杖をついたおじいさんも、親子連れもタクシーの運転手さんも、みんなみんなもれなくホクロがある。
いつかこんな日が来るかもしれないと思っていたけれど、そうか、今日だったか。
〈完〉