第18話 夜に鳴くセミ1

文字数 689文字

 前からそうだったのかイマイチ確信がないけれど……。
 ここ数年、夜にセミが鳴くことが増えた気がする。

 子供の頃は――いや、今高校生だけど、幼稚園とか小学校とかそのくらいの話――セミが昼以外に鳴いているのを聞いたことがなかったと思う。
 夕暮れ時にカナカナ言うセミはいるけれど、日が落ちて空が完全に暗くなっているのにセミの鳴き声がするのは、何だか変な感じ。

 最初にこのことに気づいた夜は、これは何かよくない出来事の前兆じゃないかと思った。
 ホラ、東日本大震災以降、首都直下型地震や南海トラフ地震やらがよくテレビで話題になるじゃん。
 セミは感覚器官の優れた昆虫だし、一生の大半を地中で過ごす生物だ。
 だから地震に対するレーダーみたいなのがあるんじゃないかって、勝手に思っていたんだ。
 ま、夜にセミが鳴いていた翌日に何かがあった試しなどなく……次第に当たり前のこととして受け入れるようになった。

 でも、夜鳴くセミは種類が限られるように思う。
 まずミンミンゼミ。
 あと、シャーみたいに長く鳴くセミ。名前は知らない。
 あとは、チキチキみたいに地味な鳴き声のセミ。
 一方で、ツクツクホウシやヒグラシが夜に鳴いているのは聞いたことがない。
 完全な昼行性かそうでないか、みたいな違いなのかもしれない。

 夏休みのある日の夜、忘れ物を取りに一人で学校に向かった。
 明日から美術部の合宿なんだけど、保護者のサインをもらって提出しないといけない紙を教室に忘れてきちゃったんだよね。
 いつか昼間に行こうと思っていて、そのままズルズル……ついに前日になってしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み