第61話 水溜り4

文字数 469文字

 目が覚めると、真っ白い天井があった。
 それと、カーテンレールから下がった水色のカーテン。
 すぐに病院だとわかった。

 ナースコールを思いつかなかった私は、「誰か」と声を出そうと身を起こしかけた。

「千香子!」

 見知らぬ婦人が視界にカットイン。
 ショートカットで白髪を薄い紫に染めた、ちょっとお洒落な人。
 確かに私は千香子だけれど……ハテ?

「今、すぐ先生を呼ぶからね」

 婦人は手をワナワナさせながら、枕元のナースコールを押した。

「お母さんよ、わかる?」

「わかりません?」

 そう答えるしかなかった。
 私の母は長い髪を黒く染めているし、顔も声も全然違う。
 面影すらない、まったく見知らぬ人だ。
 それに生まれてこの方、私は母を「ママ」としか呼んだことがない。

「そんな……千香子、ちかちゃん……」

 自称お母さんは、その場に泣き崩れた。
 お医者さんが看護師さんをつれて現れ、私の目に光を当てたり名前と生年月日を言わせたりした。
 どうやら記憶の混乱があるらしい、ということになった。
 脳に外傷はないので元に戻る可能性が高いけれど、戻らない場合もあるとか。
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