第60話 水溜り3

文字数 473文字

 信号を渡ってラストスパート。
 日頃の運動不足がたたって息は完全に上がっているけれど、もう少しの辛抱。
 あとちょっとだけ持ってくれ、と自分の心臓を励ましながら足を動かし続ける。

 そして目的地のちょうど真ん前に、私の宿敵、水溜りが出現した。
 よほどのヘタッピが道路工事したのか、ちょっとした池くらいの面積はある。
 大きく1歩じゃ全然届かない。
 助走をつけて走り幅跳びをしても、私の運動神経じゃ飛び越えるのは無理だと思う。

 でも私は覚悟を決めた。
 ここで躊躇して面接に遅れ、せっかくの未来への切符が手からすり抜けてしまうなんて我慢ならない。
 水溜りを突っ切ったとしても、せいぜい靴がダメになるくらいだ。
 いや、すでに靴はほぼご臨終している。
 もう迷う要素はない。

 私はこの日、水溜り恐怖症を克服した。
 覚悟を決めて、水へと踏み込む。
 一歩。
 二歩めの手応え? 足応え? それがなかった。
 あ、と思ったときには膝まで水面が浸かっていて、そのままぐんぐん地面が、水面が近づいてきた。
 まったく意味のわからないまま、私は底なしの水溜りへと落ち込んでいった。
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