第35話 実害はない1

文字数 789文字

 厄介な病気が猛威をふるい、世の中がメチャクチャになったのは記憶に新しい。
 いろいろと窮屈な思いを強いられることが多くなったし、余計な手間も増えた。

 わたしはアルコールが苦手な体質だから、スーパーでも服屋でもどこへ行ってもアルコールのスプレーで手を消毒しなければならないのが苦痛だ。
 それに、マスクをつねにしているからか顔に変なブツブツができて、もう半年くらい治らない。
 たぶん、いや確実に跡が残ると思うけれど、これから先の世の中は人と会うときはずっとマスクしているからどうでもいいのかな。

 でも1つだけ、良かったと心から思えることがある。
 テレワークの普及だ。
 今まで毎日出勤しつつも「これ、家でもできるんじゃ?」と思うことがあった。
 もちろん、実際に現場に出向かないとできない仕事が山ほどあるのはわかっている。
 けれども、一日中パソコンに向かってデータを集計したり文章を構成したりみたいな仕事は、会社でする必要性はないはず。
 わたしなんかは結構神経質なほうだから、他の人のタイピングの音や、イヤホンからの音漏れ、お菓子なんかを食べる音が気になって、何時間も仕事がまったく手につかなくなることも多い。
 だからテレワークが始まり家で仕事をするようになると、まったく気を散らすものがなくて集中して仕事に打ち込めた。
 仕事が捗りすぎて、定時が19時のところ15時には当日のノルマが終わってしまうこともあった。

 結局、ウィルスが落ち着くとうちの会社は通常業務に戻ってしまった。
 また毎日満員電車に揺られて出勤し、周囲の音に悩まされながら仕事をして、何となく帰りづらいプレッシャーから不必要な残業をし、家に帰ったら疲れて趣味の読書もままならない日々に戻ってしまった。
 でも、一度テレワークの快適さを味わってしまったらそんな毎日に耐えられなくなるのも時間の問題で……。
 私は仕事を辞めた。
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