第32話 物欲センサー3

文字数 617文字

 だってさ、仕事が決まったら無理でしょ、こんな生活。
 毎朝決まった時間に起きて、満員電車に揺られて、早く終わらないかなと思いながらつまんない仕事して、でも定時で上がれるわけがないから2~3時間残業して、また満員電車で帰って、たいして余暇の時間も楽しめないまま寝なきゃいけない。
 なんかさ、不幸になるために必死に就職活動しているみたいだよね。

 とか言いつつ今年の春先に、ようやく内定がもらえたんだ。
 別にやりたい仕事じゃなかったけど、ようやく世間から見とめられた気がして、堂々と生きていていいんだよと言われた気がして、嬉しかったな。
 それなのに、この疫病騒動。
 事業縮小の運びとなり、まことに残念ですが……ってさ。
 ぬか喜びになっちゃった。
 なんかもう、振り出しに戻るどころかマイナスになった気分。
 いよいよ希望が見えなくなった。

 そんなときに、見てしまったんだ。
 囚人の生活が土日祝休み、三食付き、残業無し、9時間睡眠だというネット記事を。
 仕事とは……と、考えさせられたよね。
 そりゃ、確かに自由はないかもしれないけれど、普段から家に引きこもって人と接しない生活こそ至高と思っている身からすると、それほど悪くない条件に思えてしまう。

 それから何日か続けて、刑務所に入る夢を見たんだ。
 行進して作業場に入り、畳針でダンボールを縫いつける夢。
 何に使うかなんて知らないよ、そこは夢ってことで。
 そうこうしているうち、ついに貯金が尽きた。
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