第56話 ホクロ2

文字数 837文字

 もし、身近な人の眉間にホクロが現れたとき、とにかく命を守る最優先の行動をした場合、助けることはできるのだろうか?
 家から一歩も出さないとか、病院に連れて行くとか。
 そんなことを考えていると、『ファイナル・デスティネーション』という映画を思い出した。
 迫る死を事前に見られるようになってしまった主人公が、それを回避しようと行動すると、死は手を変え品を変え絶対に殺害しようと魔手を伸ばす――みたいな内容。

 次にホクロが見えたのは、出勤前にニュースを見ていたとき。
 女性アナウンサーの眉間に、それはあった。
 私は人として、どうすべきか悩んだ。
 生放送の番組だから、現在アナウンサーがまだ存命しているのはわかる。
 たとえばテレビ局に電話をかけて、彼女の命が危ないと警告したら……?
 電話口にいるのが自分なら、たぶん信じないなと思う。
 それどころか、何らかの脅迫や事件の手口かと勘ぐって警察に通報するかもしれない。

 私はそのままいつもどおりに家を出た。
 そんなことはすっかり忘れて仕事に励んでいた夕方、スマホの通知に「速報」というテロップが出て、アナウンサー急死のニュースが届いた。
 何とも言えない気分でそれを眺めていると、少し遅れてフロアのあちこちで「ねえ、見た?」「うそ! 今朝も普通に見てたのに」みたいな会話がかわされるのが聞こえてきた。

 それからは、まぁ、いろいろ。
 すれ違っただけの人にホクロがあったこともある。
 横断歩道をわたっていてふと停車中の車を見ると、運転席と樹種席の夫婦らしき男女の二人共にホクロがあったことも。
 この先で事故に遭うのだろうと確信しつつ通りすぎようとして、車の窓をノックした。
 窓を下ろしてあからさまに不審そうな顔を向けてくる男性に「この先、事故多いんでホントに気をつけてください」とだけ言って立ち去った。
 ヤバい女だと思われただろう。
 でも、もうすぐ亡くなるわけだし自分にはマイナスにならない。
 もし奇跡が起きて助かったら、それはそれでいいし。
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