第42話 昼寝

文字数 898文字

 あれは確か、中学か高校の頃だったと思う。
 夏休みだ。
 10時頃に起きたばかりなのに、メシを食ったら2時頃には軽い眠気がやってきた。
 両親は共働きで、兄弟はいない。
 夏休みの宿題だの課題だのを無視すれば、絶好の昼寝チャンスだった。

 和室の窓を開けたら思いのほか良い風が入ってきたので、クーラーをつけず扇風機だけ回す。
 サラサラのシーツに仰向けになり、タオルケットを腹にだけ申し訳程度にかける。
 またたく間に眠りに落ちた。

 ――玄関でドアのカギを開ける音がした。
 母が仕事を早めに切り上げて帰ってきたのか。
 なんだよ、せっかくいい気持ちで寝ていたのに。
 目を開けてしまうとそのまま眠気が逃げていってしまう気がして、目を閉じたまま再び睡魔のしっぽを捕まえにまどろむ。

 結構な音がしてドアが開き、大きな足音が廊下を進んでリビングへと近づいてくる。
 それにしても、足音がデカすぎやしないか。
 母の体型は普通だし、普段はこんなにドスドスと踏み鳴らすような音を立てて歩かない。
 全体重をかけて相撲のシコでも踏むようにしなければ、こんな音にはならない気がする。
 どんだけ機嫌が悪いんだよ……。

 異様な足音はリビングを通過し、すぐ横の和室までやってきた。
 大の字になって気持よく昼寝しているのを見れば、母も少しは遠慮してくれるだろう。
 そう思っていたのだけれど。

 寝ているすぐ真横まで足音が来たかと思うと、突然両肩をつかまれた。
 何事かと思う間もなく、今度はものすごい勢いで体をガクガクと揺さぶられた。
 さすがに目を開いて「何だよ!」と怒鳴りつけようとして、言葉を失った。
 目の前には誰もいない。
 普通に、和室の天井しか見えない。
 それなのに両肩は相変わらず何者かにガッチリとつかまれたまま、痛いくらいの強さで体を揺すられている。
 何で?
 この位置なら相手の顔なり体なり、何かしら見えないとおかしい。
 怖すぎて気絶した。

 目が覚めてすぐに飛び起き、家じゅうを見て回った。
 おかしな点はない。
 母の帰った形跡もない。
 玄関のドアは施錠してある。

 そうか、あれが入眠時の幻覚、金縛りというやつなのかもしれない。
〈完〉
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