第19話 夜に鳴くセミ2

文字数 746文字

 夜の学校は、思ったほど不気味ではなかった。
 校庭は街灯に面しているので、そこそこ明るい。
 校門を乗り越え、針金を巻きつけてあるだけの昇降口から校舎に入った。
 警備員だか宿直の先生だかに出くわしたらむしろ好都合なので、コソコソしたりはしない。

 さすがに昼間とはだいぶ雰囲気の違う校舎内に少し緊張しつつ、教室のある3階に上がる。
 今日は日中37度あったとニュースで言っていたせいか、廊下は結構暑い。
 暗いから教室を間違えないよう、廊下にかかっている札で確認し、ドアを開けた。

 自分の席は真ん中の列の一番後ろ。
 ドアを空けてすぐだ。
 さっそく机の中に手を突っ込んだとき、鳴き声がした。

 チキチキ
 まじかよ、教室内にセミがいるのか?
 窓に目をやると、問題なく施錠されている。
 昼に部活かなんかで教室を利用したとき侵入して、そのまま閉じ込められたのだろうか。

 チキチキ…チキ……

 どうやらセミは教室の前の方、教壇の辺りにいるようだ。
 よかった、急に飛びかかってこられるのは、心の準備ができていても御免被りたい。

 チキ……チキ……

 あまり元気がなさそうだ。
 明日には教室のどこかでひっくり返っているかもしれない。
 次に教室を利用したヤツが、セミファイナルに驚いてケガでもしなけりゃいいが。

 よし、目的のプリントを見つけた。
 これで明日の合宿に問題なく出発できる。

 チキチキチキチキチキチキチキチキ

 異様な鳴き方に驚いて、教壇の辺りを見た。
 暗い教室にぼんやりと、人影のようなものが見える。
 右手には、銀色に鈍く光るものが。
 工具用のカッターだ。
 持ち手から刃が伸びてくると、あの音がした。

 チキチキ……チキチキ……
〈完〉
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