第20話 コンクリートジャングル

文字数 1,312文字

 自分は東北の、いわゆる田舎の出身だ。
 就職で東京にやってきて、今年で10年。
 最初は勝手が違って戸惑うことも多かったけれど、今じゃ慣れたものだ。
 訛りも直して完全に垢抜けたから、自分から言い出さなければ十中八九、地方出身者とは気づかれないと思う……たぶん。

 でも、1つだけいまだに慣れないというか、都会人スゲーと思わされることがある。
 それは、スルースキルの高さだ。

 都会の人間は冷たい、近所づきあいがない。
 そう聞かされていたからある程度は心の準備をしていたけれど、都会人の「我関せず」さは想像を超えていた。

 電車やバスで、たまに1人で大声でしゃべり続けている人、いるじゃない。
 独り言の場合もあるけれど、明らかに隣の人に話しかけているときもある。
 たとえばそうだな、「あんた、これから仕事だろ? どこ勤めてんの?」とか、「何その帽子、カッコイイじゃん。何てブランド?」とか。
 普通だったら社交辞令だと思っても、何かしら反応するよね。
 褒められたら「ありがとうございます」くらい言うもんでしょ。
 でも、無反応なの。
 話している人をチラッと見もしない。
 初めてその場に遭遇したときは、他人事ながらひっくり返りそうに驚いたね。

 まあ、確かに見ず知らずの人にいきなり話しかけてくる人はまともじゃないだろうから、関わりたくないんだろうなって気持ちはわかる。
 でもだからこそ、無視しつづけて逆上でもされたら怖くないのかな?

 あと、駅のホームで座り込んじゃって動かない人がいたのね。
 自分はその駅を通過する急行に乗ってたから何もできなかったんだけど。
 誰もその座っている人に声をかけないんだよ。
 「大丈夫ですか?」って聞いたり、駅員さん呼んできてあげたりしない、普通?
 病気かなんかで意識失っていたらヤバいじゃん。
 でも、何人もの人がその人のすぐ横を、見向きもせず歩く速度もゆるめずに通りすぎて行くんだよね。

 でも少ししたら、ネットでこんなことが書かれていて、なるほどなと思った。
 病気やケガで倒れている人の中には、動かしちゃいけない場合があるんだって。
 例えばだけれど、脊髄を損傷しかけている状態の人に「どうしたんですか?」って体を揺すったりしたら、取り返しのつかないことになるらしい。
 それで訴えられたら大変だ、って記事。
 善意で助けようとして訴えられたらたまったもんじゃないし、スルーしたほうが得策って人も多いんだろうね。

 それで今日のことだよ。
 めずらしく定時近くに上がれて、まだ明るい空の下、家路を急いでいたのね。
 そしたら電信柱にもたれるようにして座り込んでいる人がいるの。
 結構人通りのある道だから、誰か先に話しかけるかなと思って足を止めて見ていたんだけど、案の定ことごとくスルーなんだわ。
 だから、しょうがなくと言うとアレだけど、なけなしの正義感を振り絞って声かけたのね。
 さっき言ったように触るとヤバいかもしれないから、耳元まで屈んで手でメガホン作って。

「どうしましたか、救急車呼びましょうか?」

 普通に話すときよりも少し大きめの声で言ったよ。
 そしたらさ、こう返ってきた。

「おまえ、おれのことが見えるのか」
〈完〉
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