第58話 水溜り1

文字数 502文字

 私って、水溜り恐怖症なんだよね。
 あの普通の水溜りのこと。
 雨が降るとよく地面にできるやつ。

 子どもの頃、テレビで『パンを踏んだ娘』っていう童話の、影絵みたいなのやっててね。
 よく覚えてないけど、パンを届けにいくよう言いつけられた女の子が水溜りに行く手を阻まれて、パンを踏み石みたいにして渡ったら地獄に落ちたとかそんな話。
 冷静に思い出すと別に怖くないんだけれど、地獄に落ちる歌かなんかが結構怖いメロディで、見事に恐怖症になった。

 以来私は、水溜りは絶対に避けて通ることにしていた。
 だいたいは飛び越せる大きさだから別に不都合はない。
 大きめの水溜りでも、ちょっと回り込めばいいだけのことだし。

 ちょうど1年前のこと。
 働きながら転職活動していた私は、定時ダッシュして面接先の企業に向かっていた。
 19時が今の職場の定時で、20時に面接。
 時間がかなりギリギリだから本当は20時半の時間帯があればよかったんだけど……向こうの採用担当だって定時は19時だろうから、文句は言えない。
 定時ダッシュとはいえ、まさか19時ジャストに会社を飛び出せるわけもなく、4分くらいにパソコンの電源を落とすことに成功した。
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